「保存樹木だったケヤキ」はなぜ伐採されたのか 1本の大木が問いかける街づくりに欠けた視点
世田谷区の「中高層建築物等の建築に係る紛争の予防と調整に関する条例」(中高層条例)によると、隣接区域(10メートル)の住民に対しては開発事業者の説明義務がある(第7条)ので、説明の機会はあったという。ただし、「説明」とはあくまでマンションの建設についてであり、保存樹木の指定解除・伐採についての話は特になかった。世田谷区側も中高層条例は伐採には適用しないというスタンスだった。
一方、事業者側からすれば、適正な手続きを経て事業計画を進めているにすぎないので、計画を止める理由がない。「ケヤキは避難路にあたる」「敷地内にこの大木は移設できない」といった説明のほか、費用や管理面の課題も説明されたという。
本件についてオープンハウスに問い合わせたところ、「行政のルール・指導に従って進めております。また、近隣住民の皆様とも協議をしながら、適切に進めております」との回答が返ってきた。
実はこうした保存樹木をめぐる訴えは各地で起きている。
杉並区でも、区の保存樹木に指定されている25メートルのケヤキの木が、やはりマンション用地となったことを受け一方的に指定を解除された。住民有志が署名サイト「Change.org」で伐採反対を訴えたところ、1万人を超える署名が集まった。
法的には保存樹木の伐採を止めるのは難しい
ただ、法的には今回の件も含めて、景観保護を理由に保存樹木の伐採を止めることは難しい。
「そもそも『その木は誰のもの?』というと、当然ながら所有者のもの。切るのも保存するのも、その所有者の自由であり、保護すべき権利。その権利に制約をかけるのは重大な人権侵害となる」と、不動産法務に詳しいAuthense法律事務所の森田雅也弁護士は説明する。
例えば、所有権を制約するのであれば、他の権利との調整問題になる。「訴訟によって、所有者や開発事業者の権利の制約を是とするほどの侵害利益があるかを認めさせることはきわめてハードルが高い」(森田弁護士)。
また、人格権から導かれる「まちづくり権」にもとづいて周辺住民が開発工事の差止請求を起こす方法もあるが、ここで主に想定されるのは騒音被害などのケース。今回のような景観保護のケースには当てはめにくいという。
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