原発事故の賠償指針で被災地に広がる不安、「線引き」が決める原発賠償の”格差”


現場知らずの審査会、自覚のない「線引き」

被災地や風評被害を受けた地域で共通しているのは、「指針に現場の声が反映されていない」という意見だ。審査会委員には法曹界の著名人が名を連ねるが、実際に現場を訪れる作業は政府の担当者が行っている。それも「県の商工会連合会にはヒアリングに来たが、各町村の商工会まで聞きに来ることはない」(大熊町商工会の鈴内事務局長)。

今回の事故の場合、被害の内容は個々で異なるうえ、被害者からすれば指針は今後の生活を大きく左右する影響を持つ。それだけに、綿密な現場検証が必須だが、「(委員は)自分たちが深く考えずに引いた『線』が生き死にに関わるという自覚がない」と、茨城県東海村のJCO臨界事故の賠償基準作りに関わった、中所克博弁護士は問題視している。

被災者目線が欠ける中で、指針の文章自体がわかりにくいという指摘もある。そもそも、指針は公にされているものの、被災者に配付されているわけではない。自らネットなどでアクセスしない限り読むこともできず、避難場所に身を寄せている被災者は「情報弱者」になりかねない。現状は冒頭の説明会などを通じて内容の説明が行われているが、遠隔地などに避難している場合は、こうした機会も少ないだろう。

被害者にとってみれば、「カネではなく、元の生活に戻して欲しい」という思いも強い。郡山市で被害者相談を行うけやき法律事務所の渡邊純弁護士は、「事故で生活基盤や地域社会が破壊されている。金銭賠償だけでなく、どうしたら元の生活の戻れるのかなど、その先も考えなければならない」と強調する。

「元の生活に戻る」とは、単に地元に戻るという意味ではない。浪江町商工会の原田副会長は言う。「原発によって破壊されたコミュニティが再生しないと意味がない。たとえば、個々の商店は他店に強みとなるアドバンテージがあったわけではなく、地域のつながりの中で商売をしてきた。コミュニティと言っても、浪江や大熊など単独の数千人規模で戻っては意味がなく、数万人規模ある双葉地区の人口が戻らなければ尻すぼみになってしまう」。

被災地の声は審査会にどこまで届くのか--。

(倉沢 美左 =週刊東洋経済)

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