日本人が知らない南シナ海の「いまそこにある危機」 日米比首脳会談で試される同盟への覚悟

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一方、中国とフィリピンが角突き合わせる南シナ海の現況は、台湾海峡以上に切迫する「いまそこにある危機」だ。

南シナ海に勝手に十段線なるものを引いて、「歴史的に明白」などと根拠も示さない中国の領有権主張は噴飯ものだ。フィリピンに対する言いがかりや妨害は国際法違反である。

だとしても私は、南シナ海で武力衝突が発生した場合に日本が巻き込まれることは避けたいとも考えている。「3国(準)同盟」に踏み込めば、その恐れが増すことはないのか。それが私の根本的な疑問である。

フィリピン沿岸警備の艦艇はほとんどが日本が供与したものだ。それを中国艦船が沈没させ、アメリカ軍がMDTに基づいて参戦したとしたらアメリカ軍も無傷ではいられないだろう。

日本はどう対応するのか。集団的自衛権の行使を可能にした2016年施行の安保関連法で規定されている「重要影響事態」にあたるのか。「存立危機事態」と認定する可能性はあるのか。南シナ海の紛争にからんで沖縄のアメリカ軍基地周辺が攻撃されたら「武力攻撃事態」になるのか。アメリカ軍がフィリピンへの武器などの提供にとどめた時にも立ち位置を問われるだろう。

日本は南シナ海に目が向いていない

台湾有事については、民間団体が専門家らを集めてシミュレーションしたことが報じられているが、南シナ海についてそうした研究がなされたり、公開されたりしているのかどうか、寡聞にして知らない。

2024年11月のアメリカ大統領選でバイデン氏が敗れたら、アジアの安全保障環境も大きな影響を受けるだろう。2028年にはフィリピンで大統領選があり、次期政権がマルコス政権と別の方向へ進むこともありうる。

そうした変数も含めて、「3国(準)同盟」の意味やリスクについて政府が国民への説明責任を果たしているとはとても言えない。国会の議論や新聞の報道も甚だ不十分である。

柴田 直治 ジャーナリスト、アジア政経社会フォーラム(APES)共同代表

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しばた・なおじ

ジャーナリスト。元朝日新聞記者(論説副主幹、アジア総局長、マニラ支局長、大阪・東京社会部デスクなどを歴任)、近畿大学教授などを経る。著書に「ルポ フィリピンの民主主義―ピープルパワー革命からの40年」、「バンコク燃ゆ タックシンと『タイ式』民主主義」。

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