ピークアウトした中国スタートアップ投資の現在地。事業継続を断念した創業者が語った実態

中国の近年の経済発展を支えてきた創業熱が冷え込んでいる。雨後のタケノコのように生まれたスタートアップ群は自転車やモバイルバッテリーのシェアなどの新サービスを提供してきたが、米中ハイテク摩擦の長期化などで資金調達や設立が急減している。
一方、共産党・政府は人工知能(AI)、半導体など経済安全保障に直結する分野のスタートアップ支援は続けており、中国における創業は官製色が強まりつつある。
「日本は地震が当たり前のように起こるからといって地震対策を怠っていいわけではない。私の会社は中国の環境変化への準備が足りなかった」。スマートフォン決済技術を手がける北京のスタートアップ経営者は筆者のヒアリングに反省の弁を述べた。この経営者が創業したA社は最近、事業継続を断念した。
A社はネット通販大手アリババグループ傘下の金融会社アントグループなどから出資を仰ぎ、「支付宝(アリペイ)」をはじめとする決済サービス周辺のビジネスを展開。中国でスマホ決済が一気に普及した2015年前後に急速に業績を伸ばした。ところがアントは2021年、当局によるネット産業への締め付けを受けて事業の整理を始め、A社との取引も対象とした。A社は大株主と大口顧客を一挙に失った。
地方政府系ベンチャーキャピタル(VC)との関係がこじれたことも追い打ちとなった。A社は安徽省と山東省の政府系VCからも出資を受けていたが、不動産市況の低迷で地方政府の財政が悪化すると投資を回収したいとの圧力が強くなったという。
さらに、いずれのVCもA社との窓口役が反腐敗運動などで失脚し、出資関係の解消を余儀なくされた。
スタートアップ投資は2014年から急増
A社の浮沈は中国の創業環境の変化を反映している。
党・政府は2014年、「大衆創業・万衆創新(大衆による創業・万人によるイノベーション)」というスローガンを打ち出し、スタートアップ支援を鮮明にした。起業家や中小企業に対する税制優遇、地方政府による創業支援ファンドの設立、大学における創業教育充実などの支援策が相次いで実行された。
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