日本人が知らない南シナ海の「いまそこにある危機」 日米比首脳会談で試される同盟への覚悟
バイデン大統領は4月2日、中国の習近平国家主席と1時間45分にわたり電話で会談した。2023年11月にアメリカ・カリフォルニア州で面談して以来の直接対話だった。
台湾問題、対中輸出規制、ウクライナ・中東情勢とテーマは多岐にわたったが、南シナ海問題が最重要議題の1つであったことは間違いない。
軍事的関与のハードルを下げたアメリカ
バイデン氏は中国艦船によるフィリピン船舶への「危険な行動」に対して懸念を示し、強く自制を求めた。中国の攻撃で今後、フィリピン側に死者が出た場合、同盟を結ぶアメリカの対応が問われるからだ。
2023年5月の米比共同声明は、南シナ海で「フィリピンの軍、公船、航空機に対する武力攻撃があれば、MDTが発動される」と明言した。それまで南シナ海が条約の適用範囲かどうかはあいまいだったが、バイデン政権はこれを明確にし、大統領自身も「フィリピン防衛への関与は鉄壁だ」と繰り返してきた。
中国艦船が放水砲ではなく、「本物」の銃器類を使ったり、フィリピン船を沈没させたりすれば、バイデン政権は自ら下げた軍事関与のハードルが試されることになる。
アメリカにとって「日米比(準)同盟」は対中国包囲網形成の一環だ。一強の地位が中国に脅かされているうえ、ウクライナや中東で力の分散を強いられる状況の中で、米英豪(AUKUS)や日米豪印(QUAD)などの枠組みをつくってきた。2023年8月にキャンプデービッドで主宰した日米韓首脳会談は、今回の日米比首脳会談の先例ともいえる。
アメリカは日本に対し、台湾問題はもちろん南シナ海への関与も強めさせ、「応分の負担」を求めたい立場だ。
嫌米親中のドゥテルテ前大統領から政権を引き継いだマルコス大統領は、就任前の大方の予想を覆して、親米路線に舵を切った。これに憤懣やるかたない中国がフィリピンへの締め付けを強めているのに対して、マルコス政権はアメリカだけではなく、中国を警戒する国々との連携を深め、反中世論のネットワークづくりを試みている。
マルコス大統領は2024年3月、オーストラリア、欧州を歴訪、貿易・投資を呼びかけるとともに南シナ海問題でも積極的に発信し、国際法順守を訴えた。ドイツでは防衛協力拡大に合意した。
さらにフィリピンを訪問したインドのジャイシャンカル外相と会談し、海上安保協力の強化で一致した。同外相は、南シナ海の領有権をめぐる中国の主張を「国際法違反」と否定したオランダ・ハーグの常設仲裁裁判所の裁定を支持すると発言した。
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