Bさん:「一つ確認ですが、この図はAの側が背中になるわけですね。つまり図の上側が背中、下側が正面でよろしいですね。そうであれば、向かって右が人体の左側、左が人体の右側になりますね。
このように考えると、断面図が胸の高さで切断されているのであれば、Cが心臓、Bは右肺(みぎはい)になると思います。Aは難しいです、よくわかりません。ただ、背骨の側にある何らかの器官だと思います」
Bさんの答えを聞いて、私にはBさんが現実の自分の体と紙に記された横断面の図を照合、比較しているのがよくわかった。そのうえで位置関係がどのようになっているのかを精査する姿勢も伝わってきた。
CTスキャンを使用すれば見ることのできる横断面図とは言え、一般にはなじみのない図である。しかし、その制約の中で、Bさんの問題に対する感覚には、Aさんには見られないアプローチがある。
「胸に手を当てて」考えられる生徒
たとえばAさんも、胃の位置を探るために自らの腹部を触っているが、問題に示されている図と結び付ける思考がもうひと押し足りない。それに比してBさんには、紙に描かれた無機的な図を、現実に存在する生きた人体と照合、考察する力が感じられるのである。これらはまさに、「現実認識」「現実感覚」の力と言えるだろう。
そこで私は、続けてBさんに次のような2つの質問を投げかけてみた。
Bさんの答えはこうだった。
②「心臓は人体の左側にあり、また、心臓の左心室は全身に血液を送り出すため、筋肉が厚いと聞いています。だから、左の肺は心臓の大きさの分、左側に押しやられて小さくならざるをえないのだと思います」
③「切断される腹部の位置にもよりますが、おそらく、胃、肝臓、膵臓(すいぞう)などが見られるのではないかと思います。少し上の方であれば脾臓(ひぞう)なども見られ、少し下の方であれば、十二指腸も見られると思います」
この回答には感心せざるを得なかった。若干意味が異なるが、Bさんはまさに「胸に手を当てて」考えることができる生徒だと思った。左胸に手を当てれば皆、鼓動を感じる。Bさんはそういう「現実認識」から、右肺と左肺が対称的な大きさではないということを推測しているのである。
また、設問の③については、小学校か中学校の理科で目にするタテ型の人体解剖図で、基本的な臓器の位置関係を記憶し、どういう配列を形成しているか理解しているからこそ、答えられたのだと思う。Bさんの現実認識力と、基本を大切にする姿勢が感じられた出来事であった。
ちなみに、Bさんが答えられなかったAの臓器は背骨に囲まれた脊髄、Aの臓器の下に見えるハート型の器官は胸椎(きょうつい)である。その下に小さく丸く見えるのは、おそらく胸管(リンパ管)だと思われる。
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