「子どもへの医療」こそ、世の中で"最高の投資"だ カンボジアの医療に学ぶ"お金のリテラシー"
カンボジアでは、約40年前の1970年代後半のポル・ポト政権のクメール・ルージュ下で、教育や医療のシステムが一度、すべて壊されている。
全人口の4分の1に当たる170万人が虐殺されたといわれるが、家族農業回帰を掲げるポル・ポト政権が徹底的に粛清を行ったのは教員、弁護士、医師などの知識層であった。
当時は、大国同士が争うベトナム戦争末期でもあり、国際社会の認知や支援が滞ったという悲運も重なった。
結果、現在のカンボジアでは、本来であれば現場や後輩の育成に最も活躍しているべき40歳以上の医師が、十分な教育や臨床経験を積んでおらず、またその絶対数も少ない。
ゼロから「教育の仕組み」を作るのは40年でも足りない
神白先生らジャパンハートが立ち向かっている課題は、「20代の若い医師や看護師を現場で育てながら、目の前の子どもを救わなければならない」という人材面の課題であるのだ。
「カンボジアでは、医療従事者を育てる教育機関の数自体は増えてきていますが、人の育成の問題はすぐには解決しません」と神白先生は語る。
「たとえば、カンボジアのクメール語には“甲状腺”を指す単語が存在しません。卵巣も『子宮の横』と表現するなど、医学のボキャブラリーが不足しているのです。このように医療の蓄積が充分でないので、今でも現地語で幅広く医療教育をすること自体が難しいのです」
ジャパンハートは、カンボジアよりさらに貧しい国とされるミャンマーにも拠点を持つが、「ミャンマーと比較しても、カンボジアは医療教育の蓄積が極めて低いのです」と神白先生は言う。
資金さえあれば、病院や手術室を建設することや、薬や医療機器を用意することはできるかもしれないが、人を育てるには何年もの月日がかかる。
さらに人を育てる「教育システム」をゼロから作り上げるのは、40年という月日があってもなお足りない、ということである。
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