山形新幹線、25年ぶり新型「E8系」が導く大変革 アプローチ線、トンネルに続きフル規格化も?

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福島駅の新幹線ホームは4本あり、基本的には11・12番線が上り東京方面、13番線が下り仙台・盛岡方面となっているが、14番線は下り山形方面と上り東京方面の供用となっている。そのため仙台方面からやってきて山形新幹線と連結する上りの東北新幹線は、下りの13番線をまたいで14番線に入る。そして山形新幹線と連結した後は、再び下り線をまたいで上り線に入る。

このように福島駅で上り線と下り線が交差しているとダイヤ乱れの影響が大きくなりかねない。たとえば、山形方面からやってきた上り列車の到着が遅れ、東北新幹線と連結した上り列車が線路をまたぐタイミングがずれると、下り列車にも影響が出てしまう。

そこで、アプローチ線をもう1本建設して上りホームにもつなげて、山形新幹線の上りと下りを完全に分け、上りの列車が下りの線路を横断しなくてもすむようにする工事が現在行われている。2026年度末に完成の予定で、運行の安定性の向上が期待できる。

E8系 側面
停車中のE8系。車体上部に紫とオレンジ色の帯を配した塗装だ(記者撮影)

「新トンネル」はフル規格への布石?

もう1つは山形新幹線が走る奥羽本線の庭坂―米沢間約23kmの区間に、新トンネル(仮称:米沢トンネル)を建設する構想である。この区間は雨、雪、あるいは動物との衝突により新幹線の運行に大きな影響を及ぼしている。JR東日本と山形県は抜本的対策として新トンネルの事業化に向けて2022年10月に覚書を締結した。トンネルが完成すれば雪などの影響が減り、運行の安全性、安定性が増すほか、10分強のスピードアップも見込まれる。

なお、山形県は福島―山形―秋田を結ぶ奥羽新幹線と、富山―新潟―秋田―青森を結ぶ羽越新幹線の実現を目指している。山形新幹線は在来線を走るため厳密には新幹線といえない。それだけに高速運行が可能なフル規格の奥羽新幹線は県の悲願でもある。実現すれば東京と県内の沿線各駅を結ぶ所要時間は大きく短縮される。

E8系 側面行先表示
「つばさ 山形」の行き先を表示したE8系(撮影:尾形文繁)

米沢トンネルは時速200km以上の高速走行も可能としており、もし米沢トンネルの工事が始まれば、それは将来の奥羽新幹線整備への布石という意味も持つことになる。米沢トンネルの工期は着工から約15年、事業費は約1500億円を見込み、調査により今後精査するとしている。

E8系のデビュー後も、2026年度末には福島駅新アプローチ線の完成が予定され、その後は米沢トンネルの構想がある。さらにその先にはフル規格の奥羽新幹線――。この山形県の悲願を実現するためには、フル規格に向けた機運醸成は不可欠。だからこそE8系導入を契機に地域の経済や観光をぜひとも活性化させなければならない。

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大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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