見のがし配信「TVer」の明るい話題が飛び交う事情 ネット上が連日"TVer推し"になったシビアな背景

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最後にもう1つ、TVer関連のポジティブな記事が増えている背景は、民放各局の名誉回復。2000年代後半あたりから視聴率の低下が頻繁に報じられるようになり、2010年代に入るとさらに下がったほか、ネットメディアの数が増えたこともあって、連日ネガティブな記事が飛び交う事態が続いていました。

民放各局にとっては、「録画機器やネットが発達・普及し、人々の行動パターンが変わる中、視聴率が下がるのは避けられないことなのに、依然として唯一の広告指標であり、反論できない」という苦しい状態。特にもともと録画されやすいうえに、良作ほどその傾向が強くなるドラマは「視聴率1桁に低迷」「歴代最低更新」などと書かれる機会が多く、耐え忍ぶ状態が続いていました。

そんな民放各局のテレビマンたちにとってTVerの配信再生数やお気に入り数は名誉回復する絶好のチャンス。各番組のスタッフは「初回200万回過去最速で記録」「累計1000万回突破」「お気に入り数100万超」などのリリースを積極的に発信しています。

2010年代に落ちた名誉回復の好機

多くのネットメディアにとってPVを稼ぐうえで酷評などのネガティブな内容はセオリーの1つであり、だからこそ2010年代は低視聴率を酷評する記事が量産されていました。しかし、このところ低視聴率を酷評した記事は減り、その代わりに配信再生数に関わるものが増えています。

これは世間の人々から「視聴率を扱ったものは典型的なコタツ記事であること」「配信や録画視聴の多さから時代錯誤なデータであること」などを批判され、PVもさほど獲れていないこともあるのでしょう。また、ドラマは毎週見続けているファンが多いだけに、ネガティブなものよりポジティブなもののほうが読まれ、PVを得られることにネットメディアが気づきはじめたところもありそうです。

今後はコネクテッドTVがますます普及して、テレビ画面でのTVer視聴はまだまだ増えるでしょうし、「リアルタイム視聴ですらTVerで見る」という人も増えていくでしょう。

ただ1つすぐにでも改善すべき課題があるとすれば、配信再生数などの公表について。現在は「民放各局が良い結果だけをランダムに発表している」というやり方であり、指標としてフェアとは言えません。「良い結果も悪い結果も公表する」「ガイドラインを作って公表のタイミングをそろえる」などの健全化を期待したいところです。

木村 隆志 コラムニスト、人間関係コンサルタント、テレビ解説者

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きむら たかし / Takashi Kimura

テレビ、ドラマ、タレントを専門テーマに、メディア出演やコラム執筆を重ねるほか、取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーとしても活動。さらに、独自のコミュニケーション理論をベースにした人間関係コンサルタントとして、1万人超の対人相談に乗っている。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』(TAC出版)など。

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