現代人は仕事で、だいたい「無理」しすぎる 生物学の視点から見る「自然」なマネジメント

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ダイバーシティという言葉が持つのは、むやみやたらと違う人種の社員を招き入れることではありません。遺伝的に大きな差がある人間を集めるということでもありません。会社という不自然な場を、ダイバーシティを持つ社員に押しつけると必ず不自然なことが生じてきます。これは生物的に人間がそうできていることに由来するので、マネジメントが目指すことは、社員が不自然にならないように場づくりをすることなのです。

暴力性か協調性か

ユニフィケーションのコツとして「会社に上下関係をつくらないこと」が挙げられます。指揮系統の上下関係はあっても、人間的な上下関係は一切ない。ただ一緒に稼ぐ仲間がいるだけ、という構図です。これを地で行っている経営者のひとりに、日本航空(JAL)の経営再建で知られる京セラ創業者の稲盛和夫さんがいます。

以前、稲盛さんは「我が社の企業理念は全従業員を幸せにすることだ」と発言されていました。私はそれを聞いたとき、会社は英語で「company =仲間」だということを改めて思い起こしました。そう、カンパニーとは元々「仲間」なのです。

この宣言は、社員の心に響いたはずです。本来、生物が自分事として認識できるのは、自分とその周辺の仲間までのことです。会社の朝礼で「我が社が日本のイノベーションを牽引する」なんて言っても、社員の肚の底までは響きません。こんな浅い言葉では脳の表層で止まってしまいます。

私たちの遺伝子には、愛情と暴力性という二つの相反する要素がありますが、一方が他方を抑えているように見えることがあります。その場にいる複数の個体がお互いを仲間だと思うか、敵だと思うかで、どちらが発揮されるかが決まります。

チンパンジーの社会のように、暴力で地位が決まるような会社にすることもできます。他人を蹴落としてはい上がった人間が評価を得る、地位を得る。またそのリーダーを追い落としたものが、次のトップになる。そういった仕組みで動いている会社も少なくありません。

しかし、協調性を活かすマネジメントもあります。愛情を仲間に向けられる仕組みを作る。そういったことでも人のやる気は上がります。稲盛さんは、「この会社に集まった人は仲間です」と、そういう宣言をしたわけです。人のどちらの面を引き出すのかは、リーダー次第というわけです。

長沼 毅 広島大学大学院生物圏科学研究科准教授

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ながぬま たけし / Naganuma takeshi

1961年、三重県四日市市生まれ。4歳から神奈川県大和市で育つ。専門分野は深海生物学、微生物生態学、系統地理学。キャッチフレーズは「科学界のインディ・ジョーンズ」。海洋科学技術センター(JAMSTEC、現・海洋研究開発機構)勤務を経たのち、広島大学大学院生物圏科学研究科准教授。筑波大学大学院生物科学研究科修了・理学博士。

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