「唯一無二の量産型」という矛盾を内包する若者 リスクを負わず自分を差別化したい若者の生存戦略

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予想ができる分、若手社員たちのマネジメントは楽だった。彼女はこっちの部署の若者のうち半数程度に見られる心理的特徴があり、そのこと自体に良いも悪いもない。彼ら個人からすれば、自己の幸福の追求のために取っている行動にすぎない。

「いい子症候群化」は社会現象であって、決して「日本社会の課題」といった表現は適さない。あえて言うなら、これは現在の若者たちの「自己防衛反応」ではないかと考える。

「唯一無二の量産型」という自己矛盾

いい子症候群の若者たちの話をすると、よくこう質問される。

「それって若者だけではなく、日本人全体に言えることでは?」その通りだ。

ただし、過去の若者よりもわかりにくくなっていることがポイントだ。以前の若者の気質は、もっとわかりやすかった。何らかの形で、表面に現れていた。

陰キャ/陽キャの区別はもちろんのこと、趣味や、その他プライベートなライフスタイルまで、なんとなくだが、予想できた。予想ができる分、若手社員たちのマネジメントは楽だった。「彼女はこっちの部署が合いそう」、「彼はこの仕事が合うかも」といった風に。それに、予想が外れたときは、「えー! そうだったの?」と言える空気も(当時は)あった。

それが、今は違う。みんな爽やかで、みんなコミュ力高め。表面的に観測できる水準(レベル)は、明らかに上がっている。良く言えば、人材としての質的向上だ。企業、特に人事部の人たちがこぞって「最近の若者はみんな優秀」という根拠がこれだ。

悪く言えば、量産化が進行している。量産化といっても、いわゆる雑魚キャラではない。

「あなたは他の誰でもない、唯一無二の存在ですよ」、「あなたの経験や体験は、あなただけではなく、この国にとっても貴重なものなのですよ」と、ちゃんと教えられてきた世代だ。

ここが重要なポイントだと思うので、しっかり主張しておきたい。

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僕のこれまでの見立てでは、現在の若者の多くは「量産型」であり「唯一無二の存在」だ。矛盾する2つの概念を組み合わせて生きるのは、今の若者のお家芸だ。

周りと同じではいけない、個としての貴重な体験こそが君を唯一無二の存在にする、と教わり続け、事実、就職活動でも「隣の人と君との違いは何か」、「隣の人ではなく君を採用する理由は何か」を問われ続ける。

それでもなお、他人と違う自分に自信が持てない。平均値付近にいることの安心感、安定感は手放せない。

その矛盾を内包するように得たスタイルが「量産型」兼「唯一無二の存在」だ。唯一無二の存在というラベルを貼った量産型と言うべきか。

今の若者は、とても難しい役割を演じているのだ。

金間 大介 金沢大学融合研究域融合科学系教授、東京大学未来ビジョン研究センター客員教授

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かなま だいすけ / Daisuke Kanama

北海道生まれ。横浜国立大学大学院工学研究科物理情報工学専攻(博士)、バージニア工科大学大学院、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、文部科学省科学技術・学術政策研究所、北海道情報大学准教授、 東京農業大学准教授、金沢大学人間社会研究域経済学経営学系准教授、2021年より現職。主な研究分野はイノベーション論、技術経営論、マーケティング論、産学連携等。著書に『イノベーションの動機づけ:アントレプレナーシップとチャレンジ精神の源』(丸善出版)、『イノベーション&マーケティングの経済学』(共著、中央経済社)など。

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