「供給ショック」に対応、日本の"耐久力"の力強さ エネルギー資源は海外頼み、どう策を講じる?

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図表は日米の民間部門全産業の平均賃金を比較したものです。比較しやすいようにアメリカのそれは年間の平均ドル円レートを掛けて円建てにしています。

※外部配信先ではグラフを全部閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でお読みください

(グラフ:本書より抜粋)

円高の影響もあり10年前までは若干日本のほうが高かったのですが、この10年は完全にアメリカの労働者の賃金が日本を上回っています。このグラフは全産業で比較しましたが、これを工場で働く製造業に限定すると、たとえば2022年の日本の製造業平均時給(一般社員+パートタイマー)は2749円と計算されました。これに対してアメリカの製造業の2022年の平均時給は30.97ドルです。

これに年間の平均ドル円レート131.46円を掛けると4072円となり、なんと日本の製造業の約1.5倍です。日本の複雑な賃金体系を考慮して、さらにこのデータを一般労働者(正社員)に絞ると、日本の製造業の平均時給は2912円となりますが、これと比較してもアメリカの製造業労働者の賃金は1.4倍の高さです。

これなら日本で事業展開するうえでの採算をはじくと、アメリカよりも圧倒的に利益率は高そうです。残念ながら諸外国との比較データは手元にありませんが、かつて急激に円高が進んだ頃は、競争力を国際比較すると、もう日本でモノをつくる意味はないとまで断言されていたのですが、前提条件はがらりと変わってしまいました。

一般的には円が弱くなったからだという認識が広がっていますが、同時に日本の労働者の賃金が、もう何年も上がっていないことが根本的な理由であることも見逃せません。

供給ショックに対する耐久力を高める

石油危機や半導体不足などの供給ショックについても簡単にまとめておきたいと思います。エネルギー資源を海外からの輸入に頼る日本では、この手の供給ショックは、それこそ死活問題でした。“石油危機”と呼ばれた、1973年に原油価格が70%上昇した際には国中がてんやわんやとなり、後に「狂乱物価」と呼ばれて人々の心に長く記憶されることとなりました。

しかし、このときのショックを教訓に、日本はこの手の供給ショックに対する耐久力を高めてきました。それが先述した“複雑”な流通経路であり、わかりやすく言えば仕入れ価格の上昇を、川上から川下までの長い流通経路のなかで、みんなで痛みを分かち合うような構造ができたのです。

その結果、川上から川下への物価の変動は下図のようなグラフで説明される仕組みができ上がりました。

(グラフ:本書より抜粋)
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