霊能者の予言「当たっている」と思うカラクリ インチキに惑わされるのは企業の偉い人も同じ

✎ 1 ✎ 2 ✎ 3 ✎ 4 ✎ 最新
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

リチャード・サンダースの研究チームは、20年以上にわたって何百件もの世界的な重大事件について調べたが、そのうち有名な霊能者によって予言が的中したものは1件もなかった。これらの事件には、スペースシャトル「コロンビア号」の大事故、20万人以上の死者を出した2004年のインド洋大津波、ノートルダム大聖堂の大火災、新型コロナウイルスのパンデミックなどがある。これらもすべてこの左下のマスに該当する。

最後に、右下のボックスには、どの霊能者も予言せず、実際に起こらなかった出来事(たとえば、「筆者の最新作がピューリッツァー賞を受賞する」など)が入る。

この可能性グリッドを使うと、左上のマスに入る成功事例を、他の3つのマス(ここに該当する出来事や逸話は、あまり印象的なものにはならない)の可能性と併せてとらえられる。

次に可能性グリッドを用いて、マーケティング戦略を分析してみよう。グリッドの上段は企業が対象となるマーケティング戦略を試したケース、下段は試さなかったケースになる。左列は成功した製品、右列は失敗した製品が入る。

価値があるのは成功よりも失敗の履歴書

たとえば、ハッシュパピーの活き活きとした説得力のあるストーリーを聞くとき、私たちはインフルエンサーによる採用が売り上げ増加につながった左上のマスのケースのみについて学んでいることになる。そのような偏った視点に陥らないよう、私たちは同様のインフルエンサー・マーケティングを実施して失敗した企業、挑戦せずに成功した企業、挑戦せずに失敗した企業についても、一歩立ち止まって考えるべきなのだ。

私たちにモノやサービスを売る相手は、人を説得して何かをさせる他の行為と同様、どの情報を提示し、提示しないかをコントロールしている。左上のマスにあるものについて延々と説明し、他のマスについては言及しようとしない。だからこそ私たちは、相手から提示されたものだけではなく、できるかぎり多くの証拠を集めたうえで決断しなければならない。

筆者の経験上、企業の意思決定は表面的なものである。だからこそ「何が欠けているか」を尋ね、それがなぜ重要なのかを説明することは、たとえ面倒だと思われたとしても、意味のある行為になる。

ダニエル・シモンズ 心理学者

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

Daniel Simons

イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校心理学部教授。同校の視覚認知研究所ディレクター。過去にハーバード大学心理学部の助教授および准教授も務める。カールトン・カレッジで学士号を、コーネル大学で実験心理学の博士号を取得。視覚認知と視覚認識の分野で世界有数の研究者であり、人間の知覚、記憶、認識の限界について先駆的な発見をしてきた。「見えないゴリラ実験」で、2004年にイグ・ノーベル心理学賞をチャブリスとともに受賞している。

この著者の記事一覧はこちら
クリストファー・チャブリス 心理学者

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

Christopher Chabris

ペンシルべニア州の統合医療機関である「ガイジンガー」教授。行動・意思決定科学プログラムの共同ディレクターおよび行動洞察チームの教員共同ディレクターを務める。過去にハーバード大学やユニオン・カレッジでも教鞭を執る。「心理科学協会(Association for Psychological Science)」フェロー。主な研究テーマは意志決定、注意力、知能、行動遺伝学。シモンズとの共著に『錯覚の科学』(文藝春秋、21カ国で出版)がある。

この著者の記事一覧はこちら
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

関連記事
トピックボードAD
キャリア・教育の人気記事