東京電力の格付けは震災後3カ月で9段階引き下げ、継続して格下げ方向で見直し《ムーディーズの業界分析》
主任格付けアナリスト/VPシニアアナリスト
岡本 賢治
・3月11日の東日本大震災と津波、その後の福島第一原子力発電所の事故からの3カ月間で、東京電力のシニア有担保格付けはAa2から9ノッチ格下げされ、Ba2 となっている。また、現在の長期発行体格付けはB1であり、コーポレートファミリー格付けはBa3 として新規に格付け付与されている。Baに格付けされた企業の5 年間の累積デフォルト率は9.9%となっている。
・信用力評価の観点からは、損害賠償支払いは純資産や自己資本を大きく超過しているとみられるために、政府からの迅速かつ強固な支援がなければ、東京電力単独での負担能力を超えており、財務的窮地に陥ると想定している。また格付けには下記の点も織り込んでいる。
・支援策である「原子力損害賠償支援機構法」は閣議決定されたものの、現在の政治的な状況では、国会において迅速な決定ができない可能性もある。また、いくつかの重要な事項は、新たに設立される損害賠償支援機構によって決定されると思われる。政府の賠償金支払いスキームが確定するまでには、政治的に不安定要素が多いものの、最終的にはスキームが法制化され、法的な債務整理や破産申請は避けられる。
・夏季の数カ月間、需要増に対応すべく、代替電力の獲得のためにコスト増に直面するであろう。しかしながら、価格引き上げに関する規制と厳しい経済環境の下では、東京電力にとって、十分なコスト転嫁を迅速に行えるかは不透明である。大幅なコスト構造の悪化や、代替電力の確保、増加する廃炉費用や追加的な設備投資等の課題を抱えており、東京電力は長期的に財務的には脆弱な状態に置かれるであろう。