「年収倍増も」日本を見限る日本人はどこへ行く? 円安定着のこれからは海外のほうが稼ぎやすい

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最近の海外就労の動きはどうなっているのだろうか。2023年の求人掲載数800件、応募数累計2500件の海外求人サイトWORLD POSTを運営する長島紀彦氏は、「コロナ禍明け以降、飲食店関連の求人掲載数と応募者が目に見えるほど急激に増えた」と最近の状況を語る。

「コロナ前の求人掲載は、一般求人8割、飲食店関連2割だったのが、コロナ禍明け後は一般が5割程度まで落ち込み、逆に飲食店関連が5割程度まで増えました。応募者のメインは30代、40代の独身者。日本である程度の社会経験を積んだ方がほとんどです。20代は海外移住のためというより、ワーキングホリデーで短期間行く人が多いですね」

給料大幅アップのすし職人が人気

では、メイン層の30、40代独身者群の海外転職の目的、動機は何だろうか。

「ここ数年は日本よりも給料がよいという理由が圧倒的に多いですね。30代だと国内では年収400万~500万円が相場ですが、海外なら1000万円も夢じゃない。過去に当サイトでは、アメリカのすし職人で年収2200万円というケースがありました。円安の今、海外で稼ごうと思っている人が多いのではないでしょうか」(長島さん)

残業が少ない、休日が多い、気楽な人間関係など海外の労働環境が魅力との声も多いという。

「日本で10年働いたあとにオーストラリアで調理師として就業された方が『日本人は働くために生きている。オーストラリア人は余暇を楽しむために生きている』と話していたのが印象的です。あとは、日本のぎすぎすした人間関係がいやで海外を志向される方もいて、そういう方は日系企業以外の求人を問い合わせてきますね」(長島さん)

レアケースだが、日本で出会った恋人が外国人で、その国の求人はないか、といった問い合わせもあるようだ。求人の応募者はほぼ50代までで、60代以降はほとんどないという。

WORLD POSTにおける求人応募数の人気上位職種は、①すし職人/和食調理師、②カスタマーサポート、③飲食店マネージャーの順で、中でもすし職人や和食調理師は大人気だとか。

ホテルのゲストリレーションや現地のツアーガイド、ウェディングコーディネーターなどは、日本人観光客数が落ち込んでいるためなのか、求人案件が減っているという。

就労先の人気上位5カ国は、①アメリカ(特にハワイ)、②オーストラリア、③シンガポール、④ニュージーランド、⑤ドイツとなっている。

高賃金や労働環境のよさを求めて日本に見切りをつけて海外に渡っていく現役世代が増えている一方で、老後を海外で暮らす富裕シニア層の海外移住もすっかり定着。気候が温暖、治安がいい、景観がいいなどの理由からマレーシア、タイ、フィリピン、ハワイなどが人気になっている。節税目的の富裕層も増えているといわれている。

GDPが世界4位に転落する見通しの日本経済。海外との賃金格差、労働環境格差が大きく改善する展望は見えてこない。それだけに「縮みゆく国・ニッポン」から脱出する動きは、今後ますます加速していきそうだ。

山田 稔 ジャーナリスト

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やまだ みのる / Minoru Yamada

1960年生まれ。長野県出身。立命館大学卒業。日刊ゲンダイ編集部長、広告局次長を経て独立。編集工房レーヴ代表。経済、社会、地方関連記事を執筆。雑誌『ベストカー』に「数字の向こう側」を連載中。『酒と温泉を楽しむ!「B級」山歩き』『分煙社会のススメ。』(日本図書館協会選定図書)『驚きの日本一が「ふるさと」にあった』などの著作がある。編集工房レーヴのブログも執筆。最新刊は『60歳からの山と温泉』(世界書院)。

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