東電原発事故で揺らぐ、電力債の「安定神話」
「ここにいる全員が(格付け会社)S&Pやムーディーズが格付けを下げるたびにドキドキしている。その気持ちがわかるか」。6月28日に開かれた東京電力の株主総会。ある株主の質問に勝俣恒久会長は「評価が低くなっていてたいへん申し訳ない」と陳謝するしかなかった。
福島第一原子力発電所の事故以来、米大手2社による東電の社債格付けはフリーフォール状態だ。S&Pは事故前の「AA」を直近までに「BB+」へ引き下げ。ムーディーズも「Aa2」から投機的水準の「Ba2」まで下げた。
事故の影響は原発を抱える他の電力会社にも飛び火。関西電力と九州電力は6月に予定していた起債を断念した。
賠償対象者より優遇だが
電力会社は安定的に多額の資金調達ができる社債に依存してきた。ゆえに電力債の発行額は大きく、3月末時点の全社債発行残高の20%を占める。中でも「東電債」残高は国内最大の約5兆円に上る。
投資家にも魅力は大きい。電力債は電気事業法に基づき、一般担保付き債券として他の債権者に先立って弁済を受ける権利がある。事業の公益性から非常に安全性が高いとされてきた。電力債の大半は金融機関など法人が保有するが、年金基金などに組み込まれていることも多く「意外と個人の保有比率が高い」(みずほ証券の寺澤聡子シニアクレジットアナリスト)。