走る産業文化財、「動態保存」蒸気機関車の軌跡 国鉄時代の「やまぐち号」から東武「大樹」まで
58654号機は1992年、デザイナーの水戸岡鋭治氏の監修指導の下にダークグリーンに塗装され、さらにその後、煙突にはアメリカの森林鉄道で使われていたダイヤモンドスタック型のカバーが付けられた。これは8620形を知る年配の(筆者も含め)SLファンからは不評を買った。
「SLあそBOY」は2005年に運行を終了したが、機関車と客車は2007年から約4億円をかけて修復され、2009年4月から熊本―人吉間で「SL人吉」として復活。しかし、2020年7月の豪雨で肥薩線は壊滅的被害を受け、八代―吉松間が不通となっている。翌年からは熊本―鳥栖間で運転されているが、今年2024年3月23日で運転終了の予定だ。8620形は国内現役最古の蒸気機関車ということもあり、JR九州は運転終了の理由として老朽化を挙げているが、SLファン、とくに筆者を含めた「ハチロクファン」にはこの公式見解に疑問を持つ人がいるのも確かである。
私鉄で活躍する動態保存SL
「SL銀河」や「SL人吉」の運転終了など、JR各社のSL保存運転はトーンダウンの傾向にあるように思える。一方で、私鉄の大井川鉄道や秩父鉄道(埼玉県)、第三セクターの真岡鉄道(栃木県)はSL列車を観光の目玉として継続的に運転している。
また、大手私鉄の東武鉄道は2017年8月に鬼怒川線の下今市―鬼怒川温泉間で「SL大樹」の運転を開始した。機関車は前述の通り、JR北海道からC11形207号機を借り受けた。ヘッドライトが左右に2個付いた外観から、現役時代には「二つ目」「カニ目」と国鉄マンやSLファンに親しみを込めて呼ばれていた珍しい機関車だ。
東武は本格的なSL用機関区を下今市に建設したほか、南栗橋に設置したSL検修庫ではSLの全般検査や大規模補修なども行っている。転車台を譲り受けて下今市や鬼怒川温泉に設置するなど、全国の鉄道会社の協力を受けているのも特徴だ。2020年には真岡鉄道からC11形325号機を譲り受け、2022年にはかつて静態保存されていたC11形123号機を見事に復活させた。現在は3台のC11形により「SL大樹」「SL大樹ふたら」を運行している。
動態保存SL列車の歴史はすでにほぼ半世紀になる。鉄道の文化、技術を今後に引き継ぐ存在として、これからも活躍を期待したい。
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