”復活”日本−−日中韓・造船三国志 【下】

拡大
縮小

長く忘れ去られていた造船産業が“沸騰”している。空前の受注を積み上げ、韓国・中国は造船能力の拡大に猛ダッシュ。が、独り日本は動かない。“最強”のコスト力を回復した余裕か、トラウマの呪縛か。大ブームの“向こう側”の海図は見えない。

(週刊東洋経済2月2日号より)

(【中】より続く)
 国交省海事局の坂下広朗造船課長は、今の海運市況に歪みを見ている。「鉱山のインフラが整わないために、豪州で船が沖待ちしている。この歪みが解消されたら、熱狂はさめる」。

バブル破裂後の世界

実は、韓国・中国の当局も造船の供給過剰を懸念し始めている。欧州の船主は、ドックを掘り始めたばかりの中韓の新興造船所にバンバン発注している。船台の“権利”の転売を狙っているとしか思えないマネーゲームは、バブルの証しだろう。

現存船舶量は7億トン。20年で代替すると年間の新船需要は3500トン。10年の上海万博以降、物流の伸びを3%と仮定すると2000万トンの新需要。計5500万トンはほぼ06年の竣工量とイコールだ。つまり、これから完成する新造船所はあらかた過剰となる。仮定が正しければ、10年以降、中韓の造船業界は「血の海に沈む」(日本の造船所首脳)ことになる。それは、日本の思う壺だろうか。そうは、問屋がおろさない。

中韓の造船界とも、血の海の中で淘汰が進み、強者は弱者を吸収してさらに強大になる。日本は-傷が浅いがゆえに-大小20社が小さいままに生き残る。06年の売り上げは現代重工7720億円に対して三菱重工2471億円(ともに船舶部門)。彼我の差は一段と拡大する。

今でさえ、規模の威力は強烈だ。高付加価値船の最高峰、LNG船は韓国が世界シェアの8割を握っている。「隻数を出せないのが日本の最大の問題。世界のLNGプラントがどんどん巨大化し、案件ごとに60~70隻ものLNG船が必要になっている。三菱重工はどう頑張っても年間5隻。韓国3社はそれぞれ10隻以上出せる」(海運会社)。

ヒトの“規模”にも絶望的な格差がある。日本の大学から造船工学科の看板が消えて久しいが、韓国では造船業は銀行、電子、自動車と並ぶ人気業種だ。良質な人材の採用に事欠かず、大宇の設計者は1200人。対して日本の大手は200人程度。日本が標準船に傾斜するのは、設計者不足が一因だ。

間近で日本を観察してきたサムスン重工の曺煕植(チョヒシック)・東京支店長が言う。「LNG船も韓国が技術で日本を超えたわけではない。が、日本はヒトを育ててこなかった。(長い不況で)仕方がなかった面があるが」。

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