”復活”日本−−日中韓・造船三国志 【下】

拡大
縮小

年明け早々、全国紙の一面を飾った大見出し。「JFEとIHI 造船統合へ」。JFEと日立造船の折半出資会社=ユニバーサル造船と、IHIの造船子会社が経営統合に向け交渉に入るという内容だ。「秘密」の心地よさに浸りきっていた大手の一角が、突然、動き出したのだ。

プラント事業で大穴をあけ、上場廃止の瀬戸際に立つIHIが信用回復を狙った苦肉の策、という見方もある。が、統合すれば、売り上げは国内トップ。VLCC・ケープが得意なユニバーサル、コンテナ船・護衛艦のIHIと船種の補完性もある。

だが、トラウマはここにもある。

01年、にこやかに握手するIHIと川崎重工の首脳が報道陣のフラッシュを浴びた。造船部門統合で基本合意したが、翌年、話は雲散霧消した。「交渉してみて驚いた。設計思想もこんなに違うのか」(IHI)。営業姿勢はIHIが野武士なら、川崎重工は田舎大名。経営の主導権はどちらが取るのか、合理化するなら、どちらの工場を閉鎖するのか。

このトラウマから解放されたのかどうか。今回のIHI‐JFEは、JFEが日立造船からユニバーサル造船の株式を譲り受け、80%に出資比率を高めることが前提だが、実はその前提さえまだ確定していない。

IHIのかつてのお相手、川崎造船は静観している。川崎にすれば、方針は定まっている。NACKSとともにグループ売り上げ3000億円を達成すれば、生き残りのためのクリティカルマスをクリアできる。だが、この方針も万全ではない。大連の新工場がNACKSと合弁相手のCOSCOの折半出資となれば、川崎25%、COSCO75%の持ち分となる。そのとき、運営の実権や基本設計が、従来どおり、川崎に委ねられるのかどうか。大連の新工場がLNG船に進出したら、ガス船をメインとする国内のマザー工場、坂出との調整をどうつけるのか。

一方、再編に見向きもしない“孤高”の三菱重工。業界視野が混濁を深める中、静かに決意を固めた。飯島史郎常務が言う。「まだ申し上げる段階ではないが、海外進出を真剣に検討している。中国、ベトナム、ミャンマーもメニューに入っている」。長崎・香焼ドックはいまだに世界最大。「うちがやる船ではない」としてバルカーには手を出さず、「高いが、性能で買ってもらえる」三菱を追求してきた。もちろん、生産は国内一本やり。その三菱の大転換である。「私は原動機出身。船以外の発想を入れるために、ここに来た」。

国内の技術基盤を守るためにも、海外進出するしかない--。誇り高い三菱重工が中手・常石造船の戦略を後追いする形になる。

顧客の立場から造船業を見つめる郵船の二見企画グループ長が言う。「ここ数年のうちに、“何か”をしなければ、日本は韓国に引き離され、二度と追いつけなくなるだろう」。

郵船が初めて韓国に発注したのは90年代半ばだった。たった10年で韓国の品質は日本に並んだ。中国のスピードは韓国を上回るだろう。日本が“何か”を発見し、実行する時間は、どんどん少なくなっている。(了)

梅沢 正邦 経済ジャーナリスト

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

うめざわ まさくに / Masakuni Umezawa

1949年生まれ。1971年東京大学経済学部卒業。東洋経済新報社に入社し、編集局記者として流通業、プラント・造船・航空機、通信・エレクトロニクス、商社などを担当。『金融ビジネス』編集長、『週刊東洋経済』副編集長を経て、2001年論説委員長。2009年退社し現在に至る。著書に『カリスマたちは上機嫌――日本を変える13人の起業家』(東洋経済新報社、2001年)、『失敗するから人生だ。』(東洋経済新報社、2013年)。

この著者の記事一覧はこちら
関連記事
トピックボードAD
ビジネスの人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
日本の「パワー半導体」に一石投じる新会社の誕生
日本の「パワー半導体」に一石投じる新会社の誕生
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【浪人で人生変わった】30歳から東大受験・浪人で逆転合格!その壮絶半生から得た学び
【浪人で人生変わった】30歳から東大受験・浪人で逆転合格!その壮絶半生から得た学び
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT