株価高騰で「投資しなきゃ」焦る人を待つ落とし穴 「新NISA熱」で損しないために気をつけたいこと

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(優斗が、本を)選び終えて振り返ったとき、すぐ隣の棚では、福田のおばさんと母が二人して本を吟味していた。
「ねえ、これはどうかしら。税金のことも書いてあるのよ」
おばさんが手にした本の帯に、「初心者」「投資」という単語が見える。二人の前にある本棚には、お金の貯め方や増やし方の本が並んでいた。
会計を終えたあとも、二人はしばらく話し込んでいて、その内容は優斗の耳にも入ってきた。
福田書店もネット通販や電子書籍に押されて将来への不安を感じているそうだ。おばさん自身もお金の勉強を始めたらしい。母もまた、年金だけだと老後は安心できないともらしていた。
『きみのお金は誰のため』102ページより

たしかに投資をすることは大事だが、焦って始める前に、新NISAによる投資マネーで日本経済がどれだけ復活するか、そして株価はまだ上がるのかを、落ち着いて考えてみようと思う。

株に流れる投資マネーは、2つの点で株価に影響すると言われている。

ひとつは、株を買うことによって株価が押し上げられること。もうひとつは、株によって調達した資金で企業が事業拡大を図り、さらに株価を上昇させることである。

ところが、この株による資金調達というのがくせものなのだ。

ダフ屋とヤジを飛ばす野球ファン

昭和の頃、野球の観戦チケットを購入する方法は2種類あった。正規の窓口で買うか、“ダフ屋”と呼ばれる転売業者から買うか。転売業者からチケットを購入しても、イベントの主催者にお金が流れるわけではない。

株式を購入する場合も、同じだ。企業が新規株式を発行する場合、その購入代金は企業に流れる。ところが、それ以外の場合は、すでに株を持っている人から購入するので、購入代金はその株を持っていた人に流れる。転売されているだけなのだ。

株の取引の場合、こうした転売の取引価格(株価)が上がることは悪いことではない。新規で株式を発行する場合に、高い価格で売ることができるから資金調達がしやすくなる。

ところが、現在の日本では上場株式の新規発行による資金調達は少ない。年間700兆円ほどの株取引のうち、新規発行される株式は1兆円程度。あなたの預金口座に眠っているお金を株式投資に回したところで、企業側に資金需要がなければ、企業には流れない。事業も拡大されないし、業績には何の影響も与えない。

そのお金は、株を売ってくれた人の預金口座で再び眠ることになる。

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