イスラム国が是正したい「不自然な国境線」

世界地図から見えてくるアラブの怨嗟

この協定は、1915年の「フサイン・マクマホン協定(アラブ国家独立を約束)」、「バルフォア宣言(ユダヤ資金を戦費として調達する見返りとしてパレスチナにユダヤ人居留地設定を明記)」とを一括りとして、相矛盾するイギリスの三枚舌外交として、現在でも批判の対象となっているものである。

イスラム教徒のアラブ人たちは、これまでに列強が行なう狡猾な外交戦略や経済戦略に触れていなかったため、まんまとはまってしまったのである。

イギリスは戦争中から、後に映画『アラビアのロレンス』のモデルになったトーマス・エドガー・ロレンスなどを使って、中東地域の地下には大量の石油資源が埋まっていることを把握しており、採掘に適した地域に関する情報を集めていた。

当時、石炭に代わるエネルギー源として石油に目をつけていた西欧列強は、このようにして中東の持っている文化と秩序を根底から破壊していったのである。ISはこのような歴史的背景を持って登場したとも言える。

各種報道や情報によると、ISが主張する国家理念はイスラム原理主義に基づく、徹底したカリフ国家を目指すこととなっている。ISはアブー・バクル・バグダーディをイスラム教の世界で最高権威者とするカリフとし、全ての価値を彼が決定。そしてジハード(聖戦)を戦い、2050年までに全世界をイスラム教国家にしていくことが最終目標とされている。

こうした流れからすれば、世界各地にはかつて西欧列強が造り上げたキリスト教の圧政に苦しむ国があるから、解放してやらねばならぬということになるのだ。

現在、シリアとイラクに跨るISの支配地域は、隣国ヨルダンとほぼ同じ9万650平方キロ。先に述べたサイクス・ピコ条約を事実上反故にしてしまっている。第一次世界大戦以来続いてきた、西欧列強が設定した中東の国境線を、イスラム国のやり方で設定し直そうという意思の表れだと言えるのだ。

全世界から若者がイスラム国(IS)に渡る本当の理由

事実、IS樹立後にいち早くISに入り、IS各地を巡って取材したカナダのVICE NEWSドキュメンタリーによると、ISの要人たちが口々に言うのが、サイクス・ピコ条約の不合理性であった。そして、現行の国境線の廃止がIS建国の重要な柱の1つであることを強調しているのだ。

ISが国家樹立の目標として、サイクス・ピコ条約の打破を掲げているのは、押し付けられた国境を自らの意志で消し去り、イスラム法による中東の新秩序成立を目指しているからだと言えよう。

実際、このような西欧的秩序の破壊と新秩序建設が、現実のものになっていることが、世界の若者を引き付ける要因の1つとなっている。先に挙げたVICE NEWSのドキュメンタリーによると、ISに参画する外国人は旧宗主国である欧米諸国に移民したイスラム圏出身者の2世、3世が多く、旧宗主国から差別されていると感じている者が大半を占めているという。彼らのほとんどが週給70ドル前後の低賃金で働き、清掃員や飲食店の皿洗いなどの仕事にしかありつけていない。格差社会の典型的な負け組に属している。

次ページ「革命」を望む格差社会の若者たち
政治・経済の人気記事
トピックボードAD
関連記事
  • Amazon週間ビジネス・経済書ランキング
  • ミセス・パンプキンの人生相談室
  • 「非会社員」の知られざる稼ぎ方
  • カラダとおカネのよもやま話
トレンドライブラリーAD
  • コメント
  • facebook
-

コメント投稿に関する規則(ガイドライン)を遵守し、内容に責任をもってご投稿ください。

ログインしてコメントを書く(400文字以内)
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
トレンドウォッチAD
電池開発でノーベル化学賞<br>吉野彰氏が示した「危機感」

受賞会見とともに、リチウムイオン電池の開発の歴史と当事者の労苦を振り返る。世界の先頭を走ってきた日本も、今後および次世代型の市場では優位性が脅かされつつある。吉野氏率いる全固体電池開発プロジェクトに巻き返しの期待がかかる。