人工知能が私たちの仕事を奪う経済学的な根拠 AI失業を軽視する考えはどこがおかしいのか?

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人は何かとゼロイチ思考で物事を考えがちです。AI失業についても、「職業が消滅するのかどうか」といった問いを立て、消滅しないと結論づけて安心する人がいます。

そうではなく、「各職業においていくらか雇用が減少する」といった程度問題に重きをおくべきです。特定の職業が消滅することはそれほど多くないにしても、この先数十年でその職業の雇用が何割か減るというのであれば、深刻な技術的失業の問題が発生するからです。

たとえば、デザイナーという職業は生成AIの普及によって雇用が減少するでしょうが、消滅するとは断言できません。その理由は、AIにはない独自性が発揮できる人であれば、今後も活躍できるからです。それでも、若手のデザイナーで一生食いっぱぐれないと考えている人がいたら、よっぽど才能のある人でない限り、能天気と言わざるを得ないでしょう。デザイナーの雇用は減る可能性が高いからです。

AI失業は大した問題にはならない?

2013年に、オックスフォード大学のカール・ベネディクト・フレイ氏とマイケル・オズボーン氏は、「雇用の未来 」という論文を発表しました。この論文では、アメリカの労働者のうち、47%もの人が従事する職業が10~20年後に消滅すると主張されており、AI失業に関する世界的な議論を巻き起こしました。

もしも労働者の5割近くもが仕事を失うのであれば、それは確かに大変な問題です。「雇用の未来」に対する反論の多くは、1つの職業には多数のタスクがあるというものでした。ITやAI、ロボットが奪うのは、たいがい多数のタスクのうちの1つや2つであり、大半ではない。したがって、職業の消滅はそれほど多くは起こらないというのです。

そのため、2018年頃には「AI失業は大した問題にはならない」という何となくのコンセンサスが経済学者の間で形成され、私のようにAI失業を警告する人の声はかき消されてしまいました。

しかし、そのコンセンサスこそが、ミスリーディングなゼロイチ思考の産物なのです。それは具体的にはこういう思考です。

スーパーの店員にはレジ打ちのほかに商品の発注や陳列といったタスクがある。このうち、セルフレジがレジ打ちのタスクを消滅させたとしても、ほかのタスクは残る。ゆえにスーパーの店員という職業は消滅しない。このような結論が出たとしても、レジ打ちのタスクがなくなる分、雇用の何割かが減少する可能性は残ります。そうであれば、スーパーの店員が失業にさらされないとは言えないでしょう。

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