テロが起きた直後の10月7日昼、イスラエルの捕虜となったパレスチナ人の支援活動をしている団体「サミドゥン」(Samidoun)が、イスラム系移民が集住するベルリン・ノイケルン地区で、テロを祝いお菓子を配った。
その後もパレスチナへの連帯と反イスラエルのデモがドイツ各地で行われ、17日夜から18日未明にかけては、ガザの病院爆発事件を受けて、ノイケルン地区やブランデンブルク門前で反イスラエルデモが暴動化し、シナゴーグに火炎瓶も投げつけられた。
警察はサミドゥンを活動停止処分、反イスラエルデモを不許可にし、反ユダヤ主義的なスローガンを取り締まる姿勢を強めた。
ベルリンの喫茶店で話を聞いたベルリン在住のイスラムテロを専門にするシンクタンク研究者エラン・ラハフ氏(38歳)も、反ユダヤ主義の質的な変化を指摘した。
ラハフ氏はイスラエル生まれで、テルアビブ大学で修士号を取った。ドイツ国籍も持っている。先祖にはナチ・ドイツによるユダヤ人虐殺(ホロコースト)の犠牲者もいる。
ラハフ氏は、「ドイツ各地のデモでは、パレスチナの旗だけではなく、ジハード(聖戦)の旗が掲げられた。数年前はこうした光景はなかった。今ではユダヤ人であれば殺す、あるいは殴ってやろう、と公然と発言されている」と危機感を訴える。
「ユダヤ人への憎しみは、西側への憎しみと密接」
イスラム教徒だけでなく、ドイツ人の間でもイスラエル批判が広がっている。特に大学の左派学生の間で蔓延する反ユダヤ主義は深刻だという。
ユダヤ人中央評議会のボトマン事務局長はこう話す。
「ベルリン芸術大学で2週間前、100人ほどの学生が手のひらを赤く塗り、反ユダヤ主義的な言葉を叫んだ。赤く塗った手は、2000年にイスラエル兵が殺害されたとき、殺害したパレスチナ人が血塗られた手を掲げた事件に由来する。彼らはハマスのテロリストのような恰好をして、ユダヤ人の学生を脅迫した」
こうした現状から、ボトマン氏が強調するのは、イスラエルとハマス間の紛争が、両当事者の問題にとどまらないという視点だ。
「反ユダヤ主義は社会全体の問題だ。反ユダヤ主義者で民主主義者はいない。反ユダヤ主義との戦いの中で、民主主義の強靭性も養われた。この社会で自由民主主義の原則のもと平和的な共存を目指すなら、反ユダヤ主義を唱える人を抑え、そのイデオロギーと戦わねばならない」
「イスラム主義のデモで見られる、イスラエル、ユダヤ人への憎しみと、西側世界への憎しみは密接に結びついている。日本を含む西側諸国と、中東で唯一の民主主義国家イスラエルは、自由の価値を共有する。逆にイスラム主義者だけではなく、それと一緒に行動する人たちも反自由主義思想の側に立つ」
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