米中双方の行動論理の背景に潜む「思考のクセ」 「敗戦国の日本」はどのように振る舞うべきか

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だが、「大きな物語」は終焉した。少なくとも、そのような見方が出てきた。いわゆるポストモダン論である。ある特定の何かを目指して人々は生きているのではなく、それぞれの小さな無名の人々が世を通り過ぎ、その過程で一時停止したり沈思黙考するのが現代なのだと。

これはイデオロギーとかイズムの巨大な枠組みが決定要因なのではなく、1人ひとりの自由な考えや行動でこの世は成り立つとの世界観になるだろう。それは闊達な意見交換を可能にしてくれる一方で、「小さな物語」の膨大なフローとして成り立っているがために、陰謀説の温床ともなる。実はこれが現代という時代の宿痾なのだ。

「『風が吹けば桶屋が儲かる』という事実から『桶屋には気象を操作する超能力がある』と推論することはふつうはしません」(p.113)

実に小気味いい。確かに、桶屋は風を「経由して」儲けるという言い回しを、桶屋が風を操作していると類推するなら、それは致命的とも言える認知の歪みである。何かことが起こると特定集団が裏で糸を引いているとか、自然災害が人為的に起こされたとか、この種の意見はネットでは日常になっている。 

理念の国アメリカばかりでなく、世界を脅かしているのはこのような誤作動だ。著者はこのような状況を「ポストモダニズムの劣化」と呼んでいる。

日本はどう振る舞うべきか

誰もが思いつくのはSNSだろう。情報共有がかくまで普及した現状では、今ここにいながらにして、世界中のあらゆる情報にアクセスできる。現代のテロリストが手にしているのは、銃器よりスマホである。

もとはボタンの掛け違いにすぎなくとも、その規模が更新と増設の履歴を経るほどに、破壊的性格の重みを増しているのが現代だ。そうした歪みは、もともと渋滞地帯だったところに、そこに連なる類似した大衆を呼び込み、さらなる交錯地帯を形成していく。

やはりそこで考えざるをえないのが、「その中で日本はどう振る舞うべきか」との問いであろう。著者の問題意識には、この問いがつねに遠心力として働いているように見える。

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