「どうすれば人気が出るのか、とかも分からなくて…。でもこのグループがすごく好きになったから、すごく頑張りたいなって思って。気づいたらキャプテンになって、総監督になっていました」(高橋さん)
「今年は、こんなに自分に自信のない指原が一位になることができました」(指原さん)
主人公の葛藤にハラハラドキドキさせられながら、一件落着、「正義は勝つ」という正統派のストーリーにだれもが溜飲を下げるというわけだ。
共感創出スキルの「宝箱」
そしてConnection(共感・つながり)だ。
「きょう、おばあちゃんとお母さんが総選挙を見に来てくれました。昔、お肉を食べたいと言うと、お母さんは自分だけ先にカレーパンを食べて、私にお肉を食べさせてくれました。なので、きょうは私が夜ご飯をご馳走したいです。家族のみんな、いつもありがとう!」(渡辺美優紀さん)
「全国の自信のないみなさん、私のようにいじめられて、ひきこもりになって、親にたくさん迷惑をかけてしまったみなさん、陽の当たっていないみなさん。私はもう一度1位になることができました」(指原さん)
「頑張り続けることが難しいことだってすごくわかってます。でも、頑張らないと始まらないんだってことをみんなには忘れないでほしいんです」(高橋さん)
AKBのメンバーの語り口は常に、ファン目線だ。ファン一人一人に「あなたのことを話しているのよ」「あなたに話しかけているのよ」と思わせてしまう。「お母さん」や「近所の魚屋のお兄さん」など誰の身近にもいそうな固有名詞を出して呼び掛けてみたり、誰もが経験する挫折や壁に触れて、「私も同じ経験をしたからわかるわ。きっと乗り越えられる」と訴える。
かつてのメンバー、大島優子さんは「皆さんが水をかけてくれて太陽のような光を浴びさせてくれて花を咲くことができます。でも花はいつか枯れるので、枯れないためにもいつまでも太陽のような存在でいて下さい」とファンに呼び掛けたが、ファンを太陽になぞらえる(秋元康さん譲りの)「例え力」、ファンの頭の中に一枚の絵を描いてしまうような「お絵描き話法」の表現力など、AKBのトークはまさに「共感」を創出するコミュニケーションスキルのオンパレードだ。
他にも、自分をネタに笑いをとるComedy(喜劇)という、もう一つのCを織り交ぜたり、絶妙な「間(ま)」の取り方、話しながら、微妙にトーンを変えていくテクニックなどなど、隠れた工夫を挙げ出せば、きりがない。知れば知るほど単なるアイドル、とは侮れなくなる。
ところで、冒頭のワシントンポストのAKB評だが、こうやってコミュ力を分析する中で、あながち的外れでもないような気がしてきた。マイリー・サイラスはかつての大人気アイドルだが、最近は様々なゴシップですっかりお騒がせタレントになりつつあるものの、壮絶ないじめにあった経験を語るなど、そのぶっちゃけ方や突き抜け方が半端ないことから、常に話題になる存在だ。
一方で、テイラー・スィフトは真逆の優等生。ソーシャルメディアを積極活用し、ファンにサプライズでプレゼントをしたり、自らファンを訪ねたり、密なコミュニケーションで、カリスマ的な人気を維持している。人の「強さと弱さ」、「表と裏」、そのどちらもひっくるめた人間臭さ。それらを全身全霊で表現し、訴えかける強いコミュ力。AKBの魅力はそんなところにもあるのかもしれない。
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
無料会員登録はこちら
ログインはこちら