欧州「新型寝台車」需要拡大だけでない導入の理由 「ナイトジェット」イタリア防火対策強化に対応

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前述の通り、既存車両の老朽化や、イタリアの防火基準対応という目的はあったが、置き換えられた既存車両については、路線網の拡大によって車両が不足しているため、当面は廃車にせず、他の路線へ転用して引き続き使用する。新型車両の導入によって、車両数に余裕が出たことから、今後は従来型客車の更新工事にも着手することが予想される。

車内スプリンクラー
新型ナイトジェットの車内に設置されたスプリンクラー(撮影:橋爪智之)

新型客車はテスト走行も予定通り終わり、当初の計画通り2023年12月の冬ダイヤ改正から営業運転に投入されることになった。ただし最初に投入された路線は、防火対策が急がれたイタリア方面ではなく、利用者数が多く何十年も前から営業を続けている老舗路線のウィーン/インスブルック―ハンブルク間だった。

ハンブルク中央駅 新型ナイトジェット
ハンブルク中央駅に到着した新型ナイトジェット(撮影:橋爪智之)

初日はトラブルで3時間遅れ

隣国で、車体の規格なども近いドイツ方面へ先に導入することで、何か問題が発生した際の対応がしやすいことが理由の一つと考えられ、実際に営業初日となった12月10日のハンブルク行き一番列車は、途中でドア故障のような細かいトラブルがいくつか発生し、最後には牽引していた機関車まで故障して、終着のハンブルクに3時間遅れで到着するハプニングがあった。

普通寝台個室 テーブルで朝食
部屋にテーブルが設置された普通寝台の個室。朝食は室内で(撮影:橋爪智之)

日本的感覚では、営業初日までに万全の対策を採って、トラブルを発生させないように努めるものだが、ヨーロッパでは「新車に初期不具合は起こるもの」という考えでもあるのか、と疑いたくなるほど、よくトラブルが発生する。

このように、営業開始直後は少々問題があったものの、車内の各設備は機能的にまとめられるなど、車両そのものの完成度は非常に高く、快適な夜の旅を約束してくれることだろう。新型車両はオーストリア、ドイツ、スイス、イタリアで認可を取得しており、編成数の増加とともに、順次これらの国で営業路線網を拡大していく予定だ。

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橋爪 智之 欧州鉄道フォトライター

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はしづめ ともゆき / Tomoyuki Hashizume

1973年東京都生まれ。日本旅行作家協会 (JTWO)会員。主な寄稿先はダイヤモンド・ビッグ社、鉄道ジャーナル社(連載中)など。現在はチェコ共和国プラハ在住。

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