日本製鉄、株価軟調が示す割安株脱却への険路 大型買収に伴う不透明感が嫌気され株価が軟調

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巨額の買収を行う場合、買収額が高過ぎる、あるいは過剰な負債を背負ったという懸念から、買い手の株価が下落することは世界的に珍しいことではない。とはいえ、日本企業の海外企業の合併・買収(M&A)には失敗例もかなり多く、投資家が身構えるのも無理はない。

京都大学経営管理大学院の松本茂特命教授の調査では、2002年からの10年間で日本企業が行った100億円以上の海外企業買収139件のうち、成功は17件、失敗は28件で、失敗例の方が多い。

東京証券取引所が「株価や資本コストを意識した企業経営」への取り組みを要請し、日本企業には株主価値を高めるよう強い圧力がかかっている。そうした中で、国内での企業買収は活況だ。ブルームバーグがとりまとめたデータによると、日本企業が関わる買収案件の総額は23年に前年より16%増加と、グローバルでは24%減少したのとは対照的だ。

日本製鉄の橋本英二社長は大口顧客であるトヨタ自動車に値上げをのませるなど、その大胆な手腕に対する投資家の評価は高く、期待感も高い。

海外買収に活路を求める手法

しかし、そうした中でも、日本製鉄の株価が下落したことは、割安株にとって海外買収に活路を求めるという手法が、簡単ではないことを示している。同時に、今年の日本株上昇のけん引役の一つだった大型バリュー株の今後の道のりにも暗雲が立ち込めている可能性も示唆している。

大型株で構成されるTOPIX100指数では、株価純資産比率(PBR)が1倍を下回る企業数が昨年末時点の38から現時点で26に減少した。現在も1倍割れとなっているのは、鉄鋼のほか素材、資源、金融など国内では構造的に需要減少が見込まれる業種で、0.6倍台の日本製鉄はその代表格だ。

現金をため込んだ結果、資本効率が悪化している企業群と違い、産業自体に投資家が悲観的な見通しを持っている企業の場合、自社株買いなど資本政策の変更だけでPBRを1倍以上に持ち上げるのは難しい、と岡三証券の松本史雄チーフストラテジストは語る。

ビジネスモデルを変えるM&Aは本来、評価を上げるのに有力な選択肢だ。しかし、日本製鉄の株価の反応は、M&Aが前途多難であることを裏付けている。

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著者:佐野日出之

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