精進料理で使われる食材は米、野菜、豆類が中心で、肉や魚は一切使われません。目鼻があるものは、食べてしまうと二度とよみがえらないからです。
野菜などの植物にも命はありますが、根や種子を残すことで再生させることができるので食べることが許されるのです。
料亭などで供される精進料理は、多種類の野菜料理や豆料理が並ぶ豪華なものが多いと思います。しかしそれは本来の精進料理ではありません。精進料理の真髄は、修行中の禅僧たちの食事にあるのです。
修行中の朝食は、おかゆ一杯だけです。おかずはなく、ごまと塩を1対1にして軽くすり鉢ですったものと、香菜(漬物)少々。昼は麦ごはんにみそ汁、香菜のみ。
夕食になるとこれに別菜(おかず)がつくのですが、がんもどきの煮物が半切れとか、大根と人参の煮物が2切れとか、その程度です。おかわりできるのはごはん(おかゆ)のみ、しかも1回だけです。
修行を始めて最初の3カ月くらいは、空腹で気が狂いそうになります。体重は修行中に10キロ以上減るのが普通で、栄養失調やかっけになる人もいます。
しかし人間とは不思議なもので、3カ月を過ぎる頃から体がその食事に慣れてくるのです。体重も少し戻ってきます。そして「食べる」ということのありがたさを、頭ではなく体で理解していくのです。
禅の修行とは、つまるところ「当たり前」と思っていたことを一度すべて手放すことといえるでしょう。何日も坐禅を組み続けることで、足を伸ばすありがたさを知ります。
ものすごく限られた睡眠時間で、眠りたいときに眠る喜びを知ります。そして質素を極めた食事を繰り返すことで、食べ物への心からの感謝が芽生えるのです。
食べ物はすべて命
「飽食の時代」と呼ばれて久しい現代社会の中で、フードロス問題は深刻です。
コンビニやスーパーにはすぐ食べられる食品がずらりと並び、消費期限が切れたものはすぐさま廃棄されます。まだ食べられるであろうものが、日々大量に捨てられているのです。
「いいえ、私は市販のお惣菜を利用しません。全部手作りです」とおっしゃる方でも、野菜の皮や葉を捨ててしまったり、食べきれずに残ってしまったものを廃棄したりすることは珍しくないでしょう。おいしい部分だけを食べることに、疑問を持たなくなった時代なのです。
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