――修習終了から2カ月程度で進路が未定の人は3%くらいまで減るようですが。官庁や企業に就職する人は4月登録という場合もあります。
弁護士志望者の多くは弁護士事務所、それもまっとうな事務所に就職し、OJTの機会を得たいのであって、最初から企業を志望しているわけではない。だから、進路が決まっているかどうかではなく、弁護士登録が出来ているかどうかで見なければ現実を見ていることにはならない。
その意味で、一斉登録時までに弁護士事務所への就職が決まらず、弁護士登録が出来ないことこそが大問題だ。私の修習時代にはそんなことはありえなかった。弁護士登録出来ない人が3%程度になるのは、修習終了から1年後だ。
――即独(すぐに独立し、自身の事務所を設ける)という道でもOJTの機会はあると言う若い弁護士もいるようですが。
弁護士は既存事務所に就職して経験を積んで初めて一人前になれるし、即独では弁護士会活動の重要性を教えられる機会もない。弁護士は社会的弱者の人権を守ることこそが第一義であり、それは無報酬で参加する弁護士会活動を通じて体得する。経済的に余裕がない若い世代は、弁護士会活動に不熱心。これでは人権どころではない。
悪徳弁護士と問題事務所が暗躍
――既存事務所への就職が可能な合格者数が1500人程度ということでしょうか。
3000人というのは10年前に極めて楽観的な予想のもとに弾き出された人数であって、リーマンショックや震災の影響といった社会情勢の変化に対応して修正すべきだったのに、そうする仕組みがなかった。とりあえず1500人と考えているが、状況を見て必要ならさらに減らすべき。
政府の顧問会議がこのほど、「2000人以上」を「1500人以上」に引き下げる方針を打ち出したが、あくまで「以上」だから、まだ認識が甘いように思う。就職出来ている若手の中でも、その就職先がどういう事務所なのかという問題もある。
――問題のある事務所が戦力を拡大しているという件ですね。
人権を蹂躙する問題企業を弁護する問題事務所は昔からあったが、就職難で若手がやむなく問題事務所に就職しているため、問題事務所の戦力が拡大している。問題事務所は弁護士会活動への参加など当然認めない。弁護士人口を増やした結果、増えたのは人権を蹂躙(じゅうりん)する側の弁護士だ。
――久保利弁護士らが3000人を主張していることについてはどうお考えでしょうか。
そこまで言うなら自分の事務所で大量に雇えと言いたい。彼らはそれもせず増やせと言っており、極めて無責任。そもそも法科大学院への入学者数が2000人台前半になっているのにナンセンスだ。
法科大学院の教官を務めている弁護士に増員派が多いのは、合格者数が増えれば法科大学院への入学者数が増えて、法科大学院の経営上好ましいと考えるからだ。
――予備試験のあり方についてはどうお考えでしょうか。
予備試験は合格枠をもっと大幅に増やし、法科大学院生とフェアに競わせるべきだ。法科大学院を出なければ法曹になれないのはおかしい。あれだけ時間とおカネがかかったら、裕福な家庭の人しか法曹になれない。
私は東大在学中に司法試験に合格し、家が貧しかったので中退して司法修習を受け、弁護士になった。社会的、経済的弱者の人権を守る弁護士は、多様な階層から人材を集める必要があるのに、今の制度では間違いなく私は弁護士になれなかった。
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