「割安TOB」実施企業が村上ファンドに狙われた訳 アクティビストの襲来でTOB不成立の懸念も

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割安TOBに対して株主の不満が渦巻くのは、寺岡製作所のような中小企業だけではない。

「PBR1倍が最低水準であるとの社会的通念が形成されつつある中で、0.85倍という価格での市場からの退場は、少数株主を軽視した判断だ」。12月1日、マネックスグループ傘下のカタリスト投資顧問が声明を発表した。やり玉に挙げたのは、同社のファンドが投資している大正製薬ホールディングス(HD)だ。

TOBが進行中の大正製薬HD(記者撮影)

大正製薬HDに対しては創業家の上原茂副社長がMBOを計画しており、11月27日から2024年1月15日まで、1株8620円でTOBが始まった。TOB価格はPBR換算で0.85倍と、やはり解散価値を下回る。

2024年も割安TOBが控える

純資産額を下回る価格でのTOBについて、大正製薬HDは「純資産は理論的な清算価値を示すものではない」と主張している。一方、株価はTOB開始直後から8700円近くまで上昇している。

同社株の4割は創業家が握っており、買い付け下限である発行済み株式数の66%の応募を集めることは難しくない。それでも、TOB価格よりも高値で買い取るアクティビストが参戦し、株式を高値で売却する大株主が出現すれば、TOBの成立に暗雲が垂れ込める。

2024年も割安TOBが控える。半導体商社のマクニカホールディングスによる、同業のグローセルへのTOBだ。価格は1株645円とPBR換算で0.71倍。グローセルの直近の株価はTOB価格近辺で推移しているが、実際の買い付けが始まる2024年2月上旬になって、アクティビストが襲来するかに注目が集まる。

PBR1倍を割る価格水準でのTOBに、法的な問題はない。それでも、東京証券取引所がPBR1倍割れ企業に対して改善を求める中、「(PBR算出の基準となる)簿価と時価は異なる」という紋切り型の抗弁では、株主の納得は得にくい。

8月に経済産業省が公表した「企業買収における行動指針」では、買収提案を受けた会社は「株主にとってできる限り有利な取引条件で買収が行われることを目指して、真摯に交渉すべき」と明記されている。株主に対する合理的な説明がなければ、TOBが不成立に終わるリスクはこれまでになく高まっている。

一井 純 東洋経済 記者

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いちい じゅん / Jun Ichii

建設、不動産業の取材を経て現在は金融業界担当。銀行、信託、ファンド、金融行政などを取材。

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