"大谷の犬"注目で、ブリーダーが抱く「強い懸念」 人気犬種になったがゆえに不幸な道を辿る犬も

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犬と猫の遺伝性疾患検査・親子鑑定・DNAプロファイル・混血種犬の犬種鑑定などのDNA検査関連サービスを行う「Orivet」は、250種類を超える遺伝子検査を実施している機関です。

前述したオーストラリアン・ラブラドゥードルの場合は、特有の遺伝性疾患として、29種類の検査項目があります。この犬種を生み出したコンロン氏が指摘したように、多くの遺伝病のリスクを背負った犬種なのです。

コーイケルホンディエの場合は、数が少ないため「Orivet」での遺伝性疾患検査が確立されていませんが、ある種の脳症や血液疾患、徐々に神経が麻痺して歩けなくなる病気にかかる可能性が指摘されています。しかも、ほとんどの遺伝性疾患の治療法は、まだ見つかっていません。

遺伝病を発症した犬や猫と一緒に生活することで、飼い主は精神的な苦痛と多大な経済的負担を抱えることになります。先進国を中心に、世界的にも繁殖前に必ず遺伝性疾患検査を行うことが「当たり前」になっている現実を、日本のブリーダーは知らなければなりません。

正しい知識を持ち、健全なブリーディングに努めることは、繁殖に携わるすべての人にとっての義務といえるでしょう。

ペットはアクセサリーではない

前述したコーイケルホンディエと同様、それぞれの犬種には使役目的として生み出された歴史があります。その使役により、容姿の特徴や性格、飼育方法、また指摘される特有の遺伝病も違います。

何の知識もないままに「好きな有名人が飼っているから」とアクセサリー感覚で飼ってしまうと、大抵の飼い主は「こんなはずじゃなかった」と後悔することになります。

大谷選手のインタビューで寄り添い、ハイタッチを見せたコーイケルホンディエを見て「飼いやすそう」「可愛い」「従順そう」と飼いたい衝動にかられた人が多くいるようですが、同じ犬種であっても性格や行動には個体差があります。飼育環境やしつけにも左右されますので、決して同じようにはいきません。

安易な購入は、安易な放棄につながるだけでなく、利益目的の悪徳ブリーダーやにわかブリーダーを増やすことにもなります。不幸な犬を増やす悪事にも加担していることに気づかなければなりません。

飼いたいと思ったら、まずはその犬種について詳しく調べることが大切です。さまざまな知識を得ながら、特有の遺伝病についてのリスクも念頭に入れ、終生飼育ができるのかどうかを自問自答する必要があります。

そのうえで飼う決断をしたのであれば、その犬種を心から愛し、歴史、血統、スタンダードを守り、子犬の健康を重視した健全なブリーダーから迎えることをおすすめします。それが、悪徳ブリーダーやにわかブリーダーを撲滅する早道になることでしょう。

阪根 美果 ペットジャーナリスト

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さかね みか / Mika Sakane

世界最大の猫種である「メインクーン」のトップブリーダーでもあり、犬・猫などに関する幅広い知識を持つ。家庭動物管理士・ペット災害危機管理士・動物介護士・動物介護ホーム施設責任者・Pet Saver(ペットの救急隊員)。ペットシッターや保護活動にも長く携わっている。ペット専門サイト「ペトハピ」でペットの「終活」をいち早く紹介。豪華客船「飛鳥」や「ぱしふぃっくびいなす」の乗組員を務めた経験を生かし、大型客船の魅力を紹介する「クルーズライター」としての顔も持つ。

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