【産業天気図・11年4月~12年3月】海外需要に牽引され、半数以上の業界が震災打撃から「脱出」。焦点は中期の成長戦略へ
戦後最悪の災害から、日本の産業界は驚くべき力強さで立ち直りつつある--「会社四季報」担当記者の業界景況感予想はそう総括できそうだ。拠点の直接被災や部品供給網の寸断、電力問題から、一時は長期的な事業へのマイナス影響が懸念された。しかし今回の予想では、対象となった34業種のうち5割超が秋以降に「上向き」(前年同期比で増益)になると見込まれている。
東日本大震災の被害の長期化がもっとも懸念されたのが自動車業界だ。車載半導体など基幹部品の生産拠点が東日本にあったことから、部品供給の停滞が完成車の生産にまで影響した。
だが担当記者は、夏場には完成車生産は正常稼働を回復、秋以降には前年同期を上回る製販水準が見込めるとして、業界景況感が前半(11年4月~9月)の「下向き」(前年同期比で減益)から後半(10月~12年3月)に「上向き」にV字回復すると見通している。家電・AVも同様に、前半の「下向き」が後半にV字回復しそうだ。
電子部品はさらに活況。主要企業の被災も少なくなかったが、前半・後半通じて業界景況感は「上向き」となる見通し。世界的なスマートフォンやノートパソコンなどの需要拡大に牽引される。
同様に建設機械も、前半・後半通じて「上向き」の活況。資源開発や都市建設などの海外での需要が旺盛。期初に部材調達難があるものの、主要メーカーは6月ごろには生産正常化を果たし、後半には自動車同様、高い工場稼働率で稼ぎに入る。工作機械も円高という懸念材料があるものの、やはり海外の旺盛な需要に牽引され活況が見込まれる。
内需関連産業も底堅さをみせている。不動産は住宅・マンションが震災影響や、従来から想定されていた計上戸数の水準の低さなどから低迷する見通し。ただビル賃貸部門の収益に支えられるなどし、後半景況感はやはり「上向き」が見込まれている。コンビニ・スーパーや外食も後半の顕著な回復が見込まれている。
ただ、震災後の景況感改善には打撃からの反動回復という側面も少なくない。たとえば損害保険は震災関連の準備金取り崩し効果で、経常利益が劇的に改善すると見込まれている。だが最大の主力商品である自動車保険は少子高齢化で販売が先細り傾向にあるなど、本業は低調が続く。主要各社は海外展開に活路を見出すか、リストラなどで収益力をテコ入れしなければならない状況だ。
銀行も震災影響による企業倒産増加で与信費用が膨張すると懸念される一方で、震災後に一時的に増えた資金需要が長続きしない懸念がある。こういった状況は震災以前からそれぞれの業界が抱えていた成長課題だ。
V字回復業界を遂げつつある業界にとってはもちろん、足元でまだ震災打撃を受ける業界にとっても、経営課題はもはや震災からの回復ではなく、中期的な成長戦略の加速に移っているといえそうだ。
■次ページに業種別業況見通しの一覧表
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