ベンツはなぜ、日本人を魅了し続けるのか 日本法人社長が語るブランド再構築奮闘記

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──愛されるブランド、……ちょっと響きが無難すぎませんか?

上野金太郎(うえの・きんたろう ) ●1964年生まれ。都内の西町インターナショナルスクール、渋谷区立中学校、早稲田実業学校高等部を経て早稲田大学社会科学部卒。87年に創業まもない社員30人ほどのメルセデス・ベンツ日本に入社、乗用車営業部を振り出しに幅広い部署を経験。途中ドイツ本社勤務や撤退した商用車部門も担当(撮影:鈴木紳平)

眠いしカユいかもしれないけど、考えた末の結論です。みんなにも反対されたけどあえてこの言葉使ったんです。自分たちはお客さんにも販売店にも、みんなにかわいがってもらえるような仕事をしているか。下から上まで、営業だけじゃなく経理も人事も、全員でブランドを盛り上げ、ベンツからメルセデスに変えていこうとしてるわけです。

こないだ、社員から運動会をやろうという提案があった。何で?と聞くと、知らない社員とも知り合いになれれば、みんなで目標を共有して一つの方向に進んでいけるかもしれない、力を合わせてやりたいからと。問題の先送りとか、自分は知らないとか、会議室を出てから「そんなのやってもしょうがねえよ」と批評家みたいに言ってるんじゃまったく意味がない。

根深い障壁を取り払い、目標・目的・方向を全員が見られる会社にしていくのが僕の使命だし、触れたくない点や歴史的に重たい部分も掘り起こし、悪者になってでも積み残しは全部キレイにする。トライ・アンド・エラーを経験して、対処策も理解したうえで、次に引き継ぎたいから。

輝きを維持するために 自分たちが変数になる

──実績はつねに上書き、成功の貯金はできない、と強調してますね。

成功体験が次も使えるかというと、現実問題使えないもののほうが多いから。うまくいったら、忘れて次。これほど世の中が速く回り、みんな体験を通してインテリジェンスが上がっているから、同じことを継続してたら絶対にギャップが生じますね。新しいページをめくったら、必ずゼロにリセット。メルセデスのようなでき上がったものがずっと輝き続けるためには、一つには自分たちが変数として動くってことです。

もともと僕は中途半端、ほどほど、適当が嫌い。「無理、できない」なんて言われると、怒りを通り越して理解不能。頑張るか頑張らないか、自分次第ですよね。ここまででいいと思ったら、それはそこまでの人。もうちょっと頑張ればもっとできるのに、と僕なんかは思うし、上から命じられた頑張りだけではいけないと思うんですよね。

営業なんかでも、頭ではじいた目標値じゃなく、気持ちを込めた数字にする。成長したいなら、多少キツくても自分の本気度を表明してどれだけ人を巻き込み、いかに最善の結果を得られるか。どうせやるなら、最善でなきゃ意味がないでしょ。

──本では、豪快な一方、重箱の隅はトコトンつつく上野さんのシビアさが印象的でした。起業家だった父上の血をご自身も感じますか?

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そうですね。突然僕をインターナショナルスクールに放り込み、自由放任だけど、無理難題も吹っかけてくる。小学生の頃よく海外へ連れていかれたけど、優雅な夏休み旅行なんかじゃ全然なくて、取引先の代金回収に同席させられたり、真顔で、ホテル行って今日泊まる予約してこいとか、さんざん使い走りをさせられました。

イジられても負けないくらいの子供になったって意味で、今思えばよかったと思いますよ。どんな状況でも、制約があっても、必ずできることは探せる。毎回は必要ないけど、ここというときにスゴい勇気を出せばいいってわかったから。

中村 陽子 東洋経済 記者

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なかむら ようこ / Yoko Nakamura

『週刊東洋経済』編集部記者

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