みんな大好きな「バナナ」の残酷で非情な黒歴史 途上国を掌握したバナナ企業の絶大な影響力

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ポルトガル人はマデイラ諸島やカナリア諸島(1479年までポルトガルが一部を領有)では、アフリカ人奴隷にバナナを食べさせて、砂糖を作らせていた。アメリカにアフリカ人を奴隷として送り始めたときには、米とバナナ(とくに調理用バナナ)を奴隷船に詰め込んだ奴隷たちの主食にした。

プランテーションでは、奴隷たちは自分たちに与えられた狭い土地でバナナを栽培し、粗末な配給食の足しにするよう促された。気候がバナナに適していれば、バナナは1年じゅう育ち、しかも収穫量がきわめて多かった。

最低限の労力を投じるだけで、1エーカー当たり9万キロのバナナが収穫できた。これはヤム芋の10倍、ジャガ芋の100倍だ。したがって、奴隷にできるだけ余計な時間を使わせたくない奴隷の所有者にとっては、理想的な作物だった。

巨大化したバナナ企業

バナナは当初、奴隷の労働力にもとづいたプランテーション経済を支える歯車としてアメリカ大陸にもたらされたが、数世紀後には、南北アメリカの数多くの国々の輸出経済を支えるエンジンになった。

19世紀末、鉄道や蒸気船、冷蔵技術のおかげで、傷みやすい農作物も遠く離れた国々に輸出することがしだいに可能になってきた。とくにこの進歩の恩恵を受けたのが、バナナだった。

バナナは腐りやすかったことから、19世紀末までは、アメリカですら少量しか売られていない高価な果物だった。

アメリカへの大規模なバナナの輸出が可能になったことで、ユナイテッド・フルーツ(現チキータ)や、そのライバル企業スタンダード・フルーツ(現ドール)をはじめ、アメリカ企業はこぞってカリブ海(キューバ、ドミニカ共和国、ハイチ)や、中央アメリカ(とくにホンジュラス、コスタリカ、ニカラグア、パナマ、グアテマラ)や、南米北部(現在、世界最大のバナナ輸出国であるコロンビア、エクアドル)にバナナのプランテーションを設立した。

それらの国々の経済はほどなくアメリカのバナナ企業に支配されることとなった。例えば、ホンジュラスでは、鉄道、電灯、郵便、電信、電話がユナイテッド・フルーツとスタンダード・フルーツの管轄下に置かれた。

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