財政規律と予算制度改革 なぜ日本は財政再建に失敗しているか 田中秀明著 ~財政再建の可能性を長期的視点から分析
1970年代以降、わが国では幾度となく財政再建が試みられてきた。しかし、橋本財政構造改革や小泉歳出歳入一体改革を含めすべてが頓挫した。唯一の成功例とされるのは、84年に導入された特例公債脱却目標だが、これは80年代後半のバブルによる税収増と、特別会計を絡めた隠れ借金など会計操作によって達成されたものだった。
本書は、どうすれば財政再建が可能になるかを論じたものである。本書の提案が納得できるのは、日本だけでなく海外の成功や失敗を長期的視点から詳しく分析しているからだ。たとえばユーロ圏では通貨統合の際、参加条件として財政健全化が求められ、各国とも財政再建にいったん成功するが、ユーロ導入後、財政規律は失われ、多くの国は巨額の財政赤字を抱えている。本書が目指すのは、あくまで持続する財政再建である。
それでは、日本はなぜ財政再建に失敗しているのか。まず、景気循環の存在が軽視されている。評者の認識では、景気が相当よくなった段階で財政再建策の策定が始まり、景気がピークに近づいた段階で実行に移される。甘い景気見通しなど、好況継続が前提であるため、不況が始まった途端に財政再建は足踏みする。さらに、政治家や要求官庁など予算編成に関わるプレーヤーには財政規律の回避に強いインセンティブが働くため、外的ショックが訪れると財政健全化を放棄する政治的圧力が高まる。プレーヤーが財政規律を維持するインセンティブ構造が予算制度に組み込まれていなければ、財政再建は成功しない。
スウェーデンなどの成功例では、財政規律をプレーヤーに認識させる事前の仕組みが制度に組み込まれている。たとえば、各省の歳出額はトップダウンで決められ、数年間動かさないことが明確にされ、与えられた予算内で効率化することが望ましいことをプレーヤーは認識する。より大きな裁量を与えることで、ボトムアップによる効率的な資金配分が可能となる。事前の仕組みだけでなく、規律遵守を監視する事後的な仕組みも組み込まれている。日本では各プレーヤーに求められる財政規律は、単年度の当初予算に対するものだけで、事後的なチェック制度はほぼ存在しない。
現在、日本では2020年度のプライマリー黒字達成を目標に掲げているが、大震災に伴う多額の復興費を理由に目標が放棄されるのではないかと懸念される。復興費に比べ毎年の財政赤字額や公的債務額は相当に大きく、大震災が財政再建を棚上げする理由にはならない。復興費は、財源を明確にしたうえで別勘定で管理し、財政健全化目標そのものは維持すべきだ。
たなか・ひであき
政策研究大学院大学客員教授。1985年東京工業大学大学院修了、大蔵省入省。91年英ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス大学院修了(MSc〈理学修士〉)。オーストラリア国立大学客員研究員、一橋大学経済研究所世代間問題研究機構教授などを経る。
日本評論社 6090円 399ページ
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら