神宮外苑だけじゃない「東京圏のスタジアム問題」 需要を見据えた長期的ビジョンや全体計画が必要

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現在、新設・建て替え構想のあるスポーツ施設は、国のスタジアム・アリーナ改革で選定したモデル施設を含めて、設計・建設段階で25件、構想・計画段階で63件に上る(2023年2月時点)。東京圏でも、三井不動産がミクシィと共同で千葉県船橋市に「(仮称)LaLa arena TOKYO-BAY」(2024年開業)、トヨタ自動車が江東区青海に「TOYOTA ARENA TOKYO」(2025年秋開業)の建設を進めており、スポーツの成長産業化に期待し、続々と民間事業者が参入している状況だ。

野球、サッカー、ラグビー、バスケットボールなど様々なスポーツイベントが増えるなかで、スタジアム・アリーナの整備をどう進めていくべきなのか。国、地方自治体、民間がバラバラに整備するのではなく、将来のスポーツ需要や30~40年後には浮上する建て替え問題などを含めてスタジアム・アリーナ整備の長期的ビジョンや全体計画が必要だろう。

東京圏全体のスタジアム・アリーナ整備

神宮外苑問題では、イコモスなどが事業計画の撤回・見直しを求めているが、限られた敷地の中での連鎖的建て替えを、樹木を伐採せずに実現するのは相当な難題だろう。しかし、東京圏全体のスタジアム・アリーナ整備として考えれば解決方法は見つかるかもしれない。

三井不動産が築地市場跡地の再開発事業者に選定された場合を考えてみる。まず築地に新スタジアムを建設し、完成後には神宮球場の代替球場としてヤクルトスワローズなどが利用する。その間に神宮球場の建て替えを行い、完成後に築地の新スタジアムは読売ジャイアンツの本拠地として使用。その後で東京ドームを含む後楽園の再開発を進めるという連鎖的な開発が可能になる。

神宮外苑を再整備する最大の目的は、明治神宮内苑の森を維持するための収益を得ることであり、「神宮球場の建て替えは何としてもやりとげなければならない」(三井不動産役員)。しかし、ラグビー場は神宮外苑に隣接した学習院女子の跡地で戦後に建てられた施設であり、明治神宮の収益には貢献していない。ラグビーの国際試合は国立競技場を使うことになるわけで、専用ラグビー場は神宮外苑の外に敷地を確保して新たに建設する方法もあるだろう。

神宮外苑は、100年前に国民からの寄付や奉仕によって整備され、今では都心に残された貴重な自然が残る緑の空間である。戦後、西洋風庭園として整備されていた絵画館前広場は、駐留米軍将校のリクリエーションのために軟式野球グラウンドになり、現在に至る。その絵画館前広場に、新たにテニス棟とテニスコートが整備される計画だが、イチョウ並木から絵画館を見た景色だけを切り取って保護すれば良いのだろうか。

「スポーツの聖地」と「都心に残された貴重な自然」との調和を図りながら、神宮外苑を次の100年へとつないでいくために、スタジアム・アリーナ整備のあり方から考えることも必要だろう。

千葉 利宏 ジャーナリスト

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ちば・としひろ / Toshihiro Chiba

1958年北海道札幌市生まれ。新聞社を経て2001年からフリー。日本不動産ジャーナリスト会議代表幹事。著書に『実家のたたみ方』(翔泳社)など。

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