神宮外苑だけじゃない「東京圏のスタジアム問題」 需要を見据えた長期的ビジョンや全体計画が必要
しかし、サブトラックなしの陸上競技場では将来的に使いづらい。そこで国立競技場全体にドームをかけて多目的用途に使えるように、建築家ザハ・ハディド氏(故人)の建て替え案を選定。東京五輪閉幕後はスポーツだけでなく音楽など様々なイベントに対応できるスタジアムにすることで五輪後の運営費用を賄う目論見だった。
ところが、ザハ案での建築費用が当初予算を大幅に上回ることが明らかになったことで、社会的な批判が高まった。故・安倍晋三元首相が2015年8月にザハ案の白紙撤回を決定し、現在のドームなしの国立競技場が完成したわけだ。国立競技場の運営は当初から民営化する計画で、事業者選定のための事前調査では良い反応が得られず、スポーツ庁では当初予定していなかった年10億円を公費負担する方針。今年7月から民間事業者の公募が行われているが、まだ結果は出ていない。
元東京都副知事の青山佾明治大学名誉教授によると「ザハ案の白紙撤回によって屋根付きの新ラグビー場の建設が確定した」という。旧ラグビー場が収容人数2.4万人に対して新ラグビー場は1.5万人。規模を縮小しても屋根付きとしたのは国立競技場に代わって多目的用途で収益を得られるスタジアムを、建物所有者となる独立行政法人日本スポーツ振興センター(JSC)が強く求めたからだと言われる。
世界陸上の会場に国立競技場が使用されるが…
2025年に日本で開催される世界陸上では、会場に国立競技場が使用されるが、サブトラックは東京五輪と同様に2km以上離れた代々木公園陸上競技場(織田フィールド)となる。世界陸連が認めてくれれば問題ないのかもしれないが、とても「アスリート・ファースト」とは言えないスタジアムである。やはり神宮外苑での国立競技場建て替えは失敗だったと言わざるを得ない。
今回の神宮外苑でのスタジアム建て替え問題をスポーツ庁の民間スポーツ担当と経済産業省のスポーツ産業室に聞いたが、「民間事業者が土地・建物を保有するスポーツ施設の整備は近隣住民などの理解を得ながら適切に進めてほしい」と、同じ答えが返ってきた。民間主導のプロジェクトに、国は直接、関与しない方針のようだ。
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