「おっさん経営者」の鈍さがジャニーズ問題で露呈 日本取締役協会・冨山氏が説く「企業の責任」

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日本の悪い癖は責任追及に熱中するが、再発防止にはあまり関心がないこと。悪者をつくって、わーっとやっつける。でもそれをやったからといって誰も救われない。ちょっと気が晴れるだけ。重要なのは被害者を今後つくらないことだ。

──冨山さんは約10年前に朝日新聞社で監査役を務めていました。今の認識を持っていたら、どう対応していましたか。

問題が解決しないのなら取引停止でしょう。

自分は割と厳しい監査役だった。セクハラ、パワハラ的な話は、基本的に「ワンストライクアウト主義」。そういう事案のときは、少なくとも懲戒処分にしろと言っていた。ところがメディアは割と緩くて、パワハラとはいえ「本人は一生懸命やったんだから」という人が多かった。

でもそれではダメ。ある種、サブコンシャス(潜在意識)の領域で問題が起きている。悪意を持って、セクハラやパワハラをする人はあまりいない。それをコンシャス(意識的)にするには、ワンストライクアウトのいわば見せしめが必要。だが、ジャニーズ問題に関しては、僕自身ずっとサブコンシャスの状態だった。残念ながら、コンシャスになれなかった。

リーガルセンスが問われる時代

──​ジャニーズ問題では、経営者の感覚や資質が問われているわけですね。

もう1つ付け加えると、日本の経営者は、労務やリーガルに関するリテラシーが低い。法律やコンプライアンスについては「弁護士に相談しましょう」という風潮がある。AI(人工知能)ビジネスなどは、法律やルールがビジネスモデルを決める。リーガルセンスなくして経営することは、極めて難しい時代になっている。今回のような人権問題への対応もその一つ。

そもそも取締役はリーガルセンスがないと、危なくて引き受けられない仕事だ。堂々と「私は法律のことなんてまったくわかりません」と口にする人もいるが、それは運転免許がないのに車を運転しているようなもの。社外取締役だろうが、取締役会のメンバーであるならば、会社法の権限と責任の中で仕事をしている。

結局この手の問題は、そこに関わっている人間のクオリティーの問題だ。最終的な歯止めはリーダーにしかかけられない。「そんなこと私は知らない、私は素人だ」と居直られたら困る。リーダーがESG感覚をきちんと持っているかどうか。それが企業の成長力をも左右する。

大塚 隆史 東洋経済 記者

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おおつか たかふみ / Takafumi Otsuka

広島出身。エネルギー系業界紙で九州の食と酒を堪能後、2018年1月に東洋経済新報社入社。石油企業や商社、外食業界などを担当。現在は会社四季報オンライン編集部に所属。エネルギー、「ビジネスと人権」の取材は継続して行っている。好きなお酒は田中六五、鍋島。

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