北野武新作「首」、プロが見た驚きの感想【後編】 「次回作への期待が膨らむ」その納得の理由は?

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今回も常連の俳優では、すごみある狂気の信長を演じた加瀬亮を筆頭に、浅野忠信、勝村政信、寺島進、大森南朋らおなじみの面々が脇を固めている。

ここに、西島秀俊、中村獅童、遠藤憲一、木村祐一、小林薫といった新顔が加わり、北野ワールドは豪華絢爛に厚みを増すことになった。

加瀬亮が狂気の信長を演じた(写真:映画『首』公式サイトより)

これは次回作へのアドバンテージであり、後期高齢者となった監督は、チーム編成上の「伸びしろ」を確保したことになろう。

日本映画の「古さ」と「新しさ」を痛感した国際映画祭

内容的に看過できないのは、今回、男色を正面から取り上げたことである。

セクシュアリティーの表現に関しては、大島渚からの影響を指摘しておかねばならない。

周知のように俳優ビートたけしは、大島の『戦場のメリークリスマス』(1983年)で鮮烈な印象を残した。

インドネシア・ジャワ島の日本軍捕虜収容所でのヨノイ大尉(坂本龍一)の英国陸軍少佐ジャック・セリアズ(デヴィット・ボウイ)への恋情を描いた本作で、たけしのハラ軍曹は、こうした男色的嗜好や主題の外にある存在だった。

ちなみにこの大島作品は、同年のカンヌで今村昌平の『楢山節考』(最高賞のパルム・ドールを受賞)の前に一敗地に塗れている。

経済大国の余勢を駆った、イエローがホワイトを捕虜にする映画を拒否したカンヌは、「日本人よ、出しゃばらずに、近代以前の楢山の闇に沈んでおれ」という、暗黙のメッセージを発したことになる。

北野武はその「古さ」と「新しさ」の対比を、国際映画祭という場で痛感したに違いない。後に彼の手がけた『座頭市』や一連の「ヤクザ映画」は、「国内向け」ではなく、「海外向け国際映画」を意識して撮られることになる。

そして時を隔てた1999年の『御法度』である。

ここで大島渚は、幕末の新撰組という男だけの集団の「女嫌い」(ミソジニー)「同性愛恐怖」(ホモフォビア)に基づく「男同士の絆」が、松田龍平演じる美少年の加入でかき乱され、何とかその秩序を保つために彼を排除するという、ホモソーシャルな男性集団維持のストーリーを提示した(原作は司馬遼太郎『新撰組血風録』より「前髪の惣三郎」「三条磧乱刃」)。

「ホモセクシュアルな無秩序」を排し、「ホモソーシャルな秩序」を再強化するという物語展開である。

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