にわかに盛り上がる「ライドシェア解禁論」の行方 大物政治家が積極推進、困惑するタクシー業界

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ここ1カ月ほど業界内外の注目を集めるのが「神奈川版ライドシェア」案だ。

黒岩知事が掲げる本案は海外で一般的に行われているライドシェアと異なり、タクシー会社による運行管理で利用者などの安全確保を図るとともに、タクシーが不足する時間帯や地域に限定して実施することで、既存タクシー事業に配慮ができる仕組みとしている。

ドライバーはタクシー会社が面接のうえで登録および研修をし、利用者による評価制度も導入する。使用車両はタクシー会社が自家用車を認定して安全管理を実施。ドライブレコーダーや配車アプリ、任意保険なども実装することで安全性を担保しようという考えだ。

三浦市で夜の時間帯での実施を検討

また、当面は県南東部の三浦市域において、夜の時間帯に(ライドシェア解禁)の検討を行う。三浦市では法人タクシーが2社、個人タクシーが14台あるが、営業時間は1社が5時から19時まで、もう1社は5時から26時だ。

10月20日に県庁で開かれた「第1回神奈川版ライドシェア検討会議」で開会挨拶をする黒岩知事(中央)。会場には報道陣が詰めかけた(記者撮影)

10月20日には、神奈川県庁で第1回目の検討会議が開かれた。冒頭で黒岩知事はアメリカや中国でライドシェアによる便利な状況を自分の目で確認してきたとしたうえで、「それをそのまま日本でやるのはなかなか難しいだろうというのが正直なところ」と述べ、「タクシー業界の皆様と一緒になって作っていくことができれば、新たなモデルとなるのではないかと思う」と期待を滲ませた。

ただ、会議に参加した三浦市内のタクシー事業者からは多くの指摘が入った。

17台を所有するいづみタクシーの八木達也・代表取締役は「そもそも三浦市でライドシェアがビジネスとして成り立つのか」と疑問を呈した。同社は2022年7月より営業時間を5時から19時として、夜間の運行を行っていない。「夜の需要はゼロではないが、運転手を長時間待機させて見合うだけの需要はとても見込めない」(八木代表)。

18台を所有する京急三崎タクシーの出席者からは、運行管理をタクシー会社が行うことに対して、「2種免許を所有していない人を使うにあたって、私たちの責任があまりに大きくなるということが気になる」という意見もあり、検討会議では多くの課題が浮き彫りになった。

神奈川県に限らず、ライドシェアには安全性を含めて懸念があることは確かだが、「移動の足」不足で困っている人がいることも事実だ。

どのように解決するのか、タクシーの規制緩和なのか、ライドシェア解禁なのか、官民一体となって冷静に現状の問題点を見極め、確実な対応策を打っていく必要がある。

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村松 魁理 東洋経済 記者

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むらまつ かいり / Kairi Muramatsu

自動車業界、工作機械・ロボット業界を担当。大学では金融工学を学ぶ。趣味は読書とランニング。パンクロックとバスケットボールが好き。東京都出身。

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