私は「そうだ、もうトイレに行こう」と思いついた。完璧ではないだろうか。トイレから会議に出ればいいのだ。
いやもちろん局の人からしたら不審者ではあるが、私が喋るパートなんてせいぜい15分くらいのものである。15分トイレでぼそぼそ何かを言うやつがいても、ここはテレビ局。寛大な心で無視してくれるであろう。
私は黒くて重い会社PCを抱え、トイレを探した。
絶望の三宅さんが見つけた一筋の光明
が、残念ながらトイレにも、赤江さんの朗らかな声は響き渡っていた。
絶望。どうしようか。どうすればいいんだ。
死にそうな顔で会社PCを抱えつつ廊下に出ると、私の目には――外にある喫煙所のバルコニーが飛び込んできた。
「これだ……!」
だだっ広い喫煙所の重いガラスの扉を開けると、さすがに外までラジオの声は響き渡っていない。
テレビ局は喫煙者が多そうなイメージがあるが、実際はほとんど人がいなかった。不審者でごめんなさい、と内心謝罪しつつ、私はイヤホンをつけ、会社PCを膝に置き、モニターが人から見えないように角度をつけ、画面に光る社員ログインのページをクリックした。
喫煙所でぼそぼそ喋りながら会議はつつがなく完了し、私は無事ラジオ出演することができたのだった。
握りしめた黒くて重い会社PCには、じっとりと手汗がついていた。
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