巨額赤字で満身創痍 拭えぬ東電の“破綻リスク”
泥沼の中での交代だ。東京電力は5月20日に2011年3月期決算を発表。同時に6月28日付で清水正孝社長(66)が退き、西澤俊夫常務(60)が後任に就く人事を明らかにした。
清水社長は福島第一原子力発電所事故の責任を取って辞任するが、事故直後に一時、健康問題で執行を勝俣恒久会長(71)に譲るなど、指揮能力について疑問視する見方があった。西澤常務は東電内で“本流”とされる企画部出身。経済産業省とも太いパイプを持つとされ、「粘り強く固い信念を持っている」(清水社長)と社内評価は低くない。
今期営業赤字の公算も
が、同氏を待ち受けているのは、とてつもなく厳しい前途だ。東電が発表した前期決算では、原子炉の事故処理費用など災害関連の特別損失で、1兆2473億円の最終赤字を計上。その結果、純資産は前々期末の2兆5164億円から1兆6024億円に激減し、自己資本比率も10・5%(前々期末18・7%)に低下してしまった。
続く今期も、福島原発停止などで電力供給能力が低下し、販売電力量の大幅減が必至。一方では火力発電の稼働増に伴い、石油や天然ガスなどの燃料費が約7000億円膨らむ見込みだ。人件費などで総額5000億円のコスト削減を掲げるものの、営業赤字の公算も否定できない。
電力量減を補うのが値上げである。平時なら、燃料価格の高騰は燃料費調整制度を通じて、一定程度を電力料金に転嫁できる。だが現在は「値上げについては言及できる段階にない」(清水社長)。また、電源構成の変動など原価構造自体が変わる場合、経産省からの認可が必要で、スンナリとはいきそうにない。
最終損益となるとさらなる不安要因がある。一つは廃炉関連費用だ。前期は事故を起こした福島第一1~4号機の冷却安定や廃炉費用で約6300億円を計上。今後の廃炉などの費用は現時点で「合理的に見込めるものは織り込んだ」(武井優副社長)とするが、1~3号機の炉心溶融が発覚したのに加え、放射性物質を含む汚染水の量も増え続けている。「(事故収束の)工程表自体が見直されればそれなりの費用は出るだろう」(国内証券アナリスト)。