パナ「共働き支援アプリ」を生んだAI専門家の深慮 元グーグル"ヨーキー"が考えるAIと人間の役割

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パナソニックが私と一緒に頑張っていくというところまで変わってきたと捉えている。この間、外部登用や社内昇進でいい人がリーダーに就いていることも大きい。

――外部人材として「一緒にやろう」となるのに、4年という時間が必要だった?

日本人はやっぱり慎重なので「まずはその人に賭けてみて、失敗したらクビにしたらいい」という感覚がない。だから、非中核的な事業からやらせて、失敗したら「(彼女が何をやっていたのか深くは)知らなかった」といえばいい、くらいの感じでいたのかもしれない。

ただ4年が経って、ようやく信頼関係が築けてきた。向こう(パナソニック)から、頑張ってほしい、一緒にやろう、という気持ちがすごく伝わってくる。

松岡陽子氏
Yoky Matsuoka(まつおか・ようこ)/幼少期からテニスに打ち込み、中学卒業後に渡米。カリフォルニア大学バークレー校を卒業後、マサチューセッツ工科大学で電気工学とコンピュータサイエンスを専攻。理学博士。ワシントン大学准教授などを歴任し、人体、脳のリハビリを促すロボット機器を開発。2009年末、グーグルXを共同で創業。アップル副社長、グーグル・ネスト(アルファベットのスマートホーム部門)のCTO(最高技術責任者)、グーグル副社長などを経て、2019年にパナソニックに役員待遇のフェローとして入社。2020年に同社常務執行役員となりYohanaを創業。22年4月パナソニックホールディングス執行役員に。著書に『選択できる未来をつくる』(当社刊)

生成AIに足りないのは「エンパシー」

――お客と直接対峙させるのに、今の生成AIは何が不足していると考えていますか。

現段階で圧倒的に足りていないのは、エンパシー(相手の意思、感情などを理解する力)。人間が「自分の話を聞いてくれて、わかってもらえた」と思えるような対応は、AIがまだちゃんとできていないことの1つ。

加えてクリエイティビティもまだ足りない。ヨハナがサービスの対象としている家の中で起こることは、けっこう複雑。

大規模言語モデルは大量の情報から世界を理解しているため、極めて平均的な返事をする傾向がある。ただ、お客さまはアベレージの返事ではなく、「私の生活」に対する個別・具体の返事が欲しい。それは、人間のほうがAIよりはるかにうまくできる。

とはいえ、AIもものすごい勢いで発展している。個人情報を読み込ませてバイアスをかけるようなことは、将来的にできるようになっていくだろう。

ヨハナをビジネスとして持続させていくには、人間と機械が担う領域のバランスをうまく取っていくことが大切。「人間が利用者の家庭に住み込んで直接手伝う」と「全部機械が担う」という両極端の“折り合い”をうまくつけていくことになる。そのトンネルの出口はすでに見えている。

――利用者とのやり取りを通じて、ヨハナには利用者の生活に関するリアルなデータが集まってきます。それをパナソニックグループとして活用していくことは検討していますか。

あくまで一例だが、ヨハナは利用者の毎日の献立を提案しているから、そのデータを電子レンジや自動調理器にも活用できれば素晴らしいな、と思う。

パナソニックに私がいる理由は、暮らしに普及した家電製品などをたくさん持っている企業として、お客さまの生活に密着して、信頼されていくようにするため。ヨハナをグループ全体とつなげていくほど、会社はよくなるはずだ。

印南 志帆 東洋経済 記者

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いんなみ しほ / Shiho Innami

早稲田大学大学院卒業後、東洋経済新報社に入社。流通・小売業界の担当記者、東洋経済オンライン編集部、電機、ゲーム業界担当記者などを経て、現在は『週刊東洋経済』や東洋経済オンラインの編集を担当。過去に手がけた特集に「会社とジェンダー」「ソニー 掛け算の経営」「EV産業革命」などがある。保育・介護業界の担当記者。大学時代に日本古代史を研究していたことから歴史は大好物。1児の親。

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