13億を率いる中国権力中枢の最深部に迫った 「中国皇帝」を巡る人類最大の権力闘争
8600万人もの党員が、その頂点を目指して権力闘争を行い、毎日のように敗者が大量生産される。少しでも尻尾を見せればライバルに蹴落とされ親族もろとも投獄される世界を何十年も生き抜いて来たのが今の中国のリーダー達だ。著者はこの生き馬の目を抜く権力闘争こそが共産党の活力の源泉になっていると言う。
確かに数十万円の汚職で逮捕されてしまうようなスケールの小さい世界で育って来た日本の政治家達が、果たしてこの共産党のエリートを向こうに回して日本を守ることができるのか、ちょっと心配になってしまう。
上述のような個々のエピソードだけでも十分面白いのだが、本書のコアは、習近平体制が誕生し権力基盤を固めるまでの、全面抗争の内幕だ。
引退後も死ぬまで院政を敷いて中国を支配しようとする江沢民と、江沢民に押さえつけられてお飾りの国家主席でしかなかった胡錦濤。この二人の最後の闘争の産物こそが習近平政権であった。その陰で汚職摘発に怯える最高幹部達は、スタートしたばかりで権力基盤の脆弱な習近平を打倒すべく、起死回生のクーデターを企てる。
本書で明らかにされる膨大な共産党の内部抗争の証言は、そのほぼ全てが匿名の情報源に依拠している。だから注釈もまったくないし、でっち上げが含まれている可能性も否定できないだろう。それでもこの本が信頼に足ると思えるのは、そこに何のイデオロギーも感じられないからだ。
凄まじい権力闘争の内側を淡々と紡いでいく
媚中でも反中でもなく、読者に何の思想も押し付けず、ただただ凄まじい権力闘争の内側を淡々と紡いでいく。2012年の共産党大会で胡錦濤の完全引退を正式発表前に誰よりも早くスクープしたのはこの本の著者だ。当時一部のメディアでは「胡錦濤が権力闘争に破れた」という見方も出ていたが、著者はその後も独自に取材を続け、必ずしもそのような解釈が正しくないということを本書で述べている。
魑魅魍魎(ちみもうりょう)の現代中国政治を理解するに最適であると同時に、日本のジャーナリズムはまだ死んでいないと安心させられる一冊だ。本書は著者が北京駐在時代に書いていた朝日新聞中国語版の連載が元になっている。当局に公表される2年も前に高官の汚職疑惑などを追求しており、当局側から何度も抗議され、結果的に朝日新聞のサイト自体が中国で閉鎖となってしまった。
共産党から目をつけられるリスクを冒してまで連載を続けることを許した朝日新聞の懐の深さに、改めて一連の吉田証言の不祥事などだけで朝日の全てを判断してはいけないと感じる。
現場ではまだ多くの優秀な記者が日夜世界を駆け巡っている。彼らの失地回復を期待したい。
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