弁護士が明かす「論点をすり替える人」を倒す方法 誤った論理でたたみかけられた場合どうするのか

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ポイントは、売掛金回収のために「子の保証を取る」とした点です。鈴木さんにすれば当然のことですが、田中さんはこの点を捉え、あたかも不当な要求をされたがごとく反論したわけです。

そして、いったん攻める側に回ったら、あとは論点を決めて一気に攻めてきました。鈴木さんが何を言っても、話をその一点に戻してしまうのです。その結果が、先ほどの「私が持っていくまで黙って待っていればいいんだ」になってしまったわけです。

「揚げ足取り」を防止する

さて、鈴木さんが、この「すり替え」に対処するにはどうしたらいいでしょうか?

それは、きっかけとなる揚げ足取りを防止することです。

田中「何だと! 私が信用できないって言うのか。子を持つ親の気持ちがわからないのか! 子の前で恥をかかせようってのか! オレを嘘つき呼ばわりしようってのか?」
鈴木「何を感情的になってるんだ。期日までに払えなければ担保を入れるか、保証を入れるのが当然じゃないか。本当に払う気があるのか」
田中「何だと! オレを嘘つき呼ばわりするのか」
鈴木「キミは支払期日を過ぎても払わなかった。つまり、もう私に嘘をついているんだ。いまさら嘘つき呼ばわりもないだろう。さあ、早く払ってくれ」
田中「……」

あるいは、「代金も払わないやつはそんなことに腹を立てる資格はない。文句は払ってから言え!」とでも言えばいいでしょう。

論点をすり替えようとする相手には、とにかく「揚げ足」を取られないことです。

こちらの言葉尻をつかまえて感情的になっている相手に対しては、冷静に「そのことは問題ではない」と軌道修正をしていくことです。

物事は、現状を維持するよりも、現状を変更するほうが、労力が大きいものです。つまり、すり替えよりも、論点を固定するほうが簡単なのです。

この例で言えば、鈴木さんは、何を言われようと気にせずに、「売掛金を払うか否か」という論点から離れないようにすればよいのです。

谷原 誠 弁護士

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たにはら まこと / Makoto Tanihara

1968年、愛知県生まれ。明治大学法学部卒業。91年司法試験に合格。企業法務、事業再生、交通事故、不動産問題などの案件・事件を、鍛え上げた質問力・交渉力・議論力などを武器に解決に導いている。現在、みらい総合法律事務所代表パートナー。ニュース番組等の解説でも活躍する。
著書に『「いい質問」が人を動かす』『気持ちよく「はい」がもらえる会話力』(以上、文響社)、『弁護士が教える気弱なあなたの交渉術』『雑談の戦略』(以上、大和書房)など多数ある。

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