弁護士が明かす「論点をすり替える人」を倒す方法 誤った論理でたたみかけられた場合どうするのか

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【論点のすり替え】「借金を返せ? 信用できないのか! 侮辱するな」

相手にとって都合の悪いことについて議論していると、いつの間にか違う話題になってしまうことがあります。そのうち、「あれ? 何の話だっけ?」となってしまうことはありませんか。これは、「論点のすり替え」です。

世の中には、この「すり替え」を巧妙に行う人がいます。旗色が悪くなると、論点をうまくすり替えてしまうのです。

すり替えが得意な人というのは、「形勢が不利だ」「議論で勝てない」と感じた場合に、相手の発言の揚げ足を取り、議論全体を自分に有利に展開しようとします。このたくらみにハマってはいけないのです。

論点のすり替えをやられてしまうと、議論の目的を達することができません。すり替えられそうになった場合には、それを防止し、話を軌道修正する必要があります。

青果の卸を営む鈴木さんは、売掛代金が500万円たまっている田中さんのところへ、売掛代金の取り立てに行きました。

鈴木「そろそろたまった売掛金を払ってもらえないか」
田中「わかってるよ。もう少し待ってくれ。今は金がないんだ」
鈴木「もう待てない。私だって仕入れがあるんだ」
田中「1カ月後には必ず払う。それまで待ってくれ」
鈴木「本当に返すのか? では、息子さんの保証を入れてほしい」
田中「何だと! 私が信用できないって言うのか。子を持つ親の気持ちがわからないのか! 子の前で恥をかかせようってのか! オレを嘘つき呼ばわりしようってのか?」
鈴木「いや、そういうわけじゃないよ……」
田中「そういうわけじゃなかったら、何だ。本当に信用していたら保証など取らないはずだろ。私はこれまで信用第一で20年間仕事をしてきたんだ。こんなふうに嘘つき呼ばわりされたのは初めてだよ。侮辱するのか? 訴えるぞ!!」
鈴木「それは悪かった」
田中「謝って済む問題じゃないだろう。私は嘘つき呼ばわりされて侮辱され、さらに子どもの前で恥までかかされそうになったんだぞ。どう落とし前をつけてくれるんだ」
鈴木「落とし前なんて、そんな大げさな」
田中「何が大げさだ。じゃあ、なぜキミは謝ったのか。私を侮辱したことを認め、私が精神的苦痛を味わったことを認めたから謝ったんじゃないのか? どうなんだ」
鈴木「確かにそうだ。しかし、とにかくうちは売掛金を払ってもらわないと……」
田中「何だと! 人を嘘つき呼ばわりして侮辱して、謝ったと思ったら、舌の根も乾かないうちにその話か。本当に反省してるのか?」
鈴木「その点は悪かった。反省している。どうすればいい?」
田中「売掛金は払うと言ってるんだ。私が持っていくまで黙って待っていればいいんだ」

鈴木さんは、売掛金を回収しに行ったのですが、なぜか「あるとき払いの催促なし」のような結論にされてしまいました。これは、田中さんが途中で揚げ足を取り、論点をすり替えて攻守逆転をしてしまったからです。

鈴木さんが売掛金の請求をしているときは、田中さんは防戦一方です。しかし、攻めどころを見つけ、一点突破してからは、一気に形勢を逆転することができました。

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