「キリスト教が、今日まで大きな発展をしとるわね。仏教もそうやな。もう、2000年以上も続いておるのは、今もって信者の皆さんが、キリストさんはこう言うてはる、聖書にはこう書いてある、お釈迦さんはこう言うてはる、仏典にはこう書いてある、そう言うやろう。禅宗のお坊さんやキリスト教の神父さん、牧師さんの話を聞いても、皆、そういう言い方やな。だから、自分はこう思うんや。つねに、キリストさんとか、お釈迦さんとか、そういうものを踏まえて話をする。決して、キリストさんを否定したり、お釈迦さんを無視したりせんわな。だから、キリスト教も、仏教も今日まで続いておるんやね」
会社を永続、発展させるためには、経営基本理念を守ること。それが、変えられないものは変えられない、変えていけないものは変えていけない。守り貫けということだろう。
「けどな、変えんといかんものも出てくるわけや、早い話。時代が変わるからな。時代に合わせるということも、経営で考えておかんと、言うところの、時代遅れということになる。戦前と今では、世の中、全然違う。社会環境ひとつとっても、とても大きな変わりようと言える。わしのやってる電器製品でも、戦前では想像もつかんようなものが、このところ、生まれてきておる。自動車も、ようく走るようになったし、電話も便利になった。そういう時代の変化、人々の考え方の変化に合わせて、経営のやり方、進め方は、変えんといかん。日に新たという、そういう経営をやらんといかんということや」
変えるべきもの、変えなければいけないものは、時代に合わせ、どんどん変えていかなければならない、そうしないと会社の発展はない、ということだろう。
「国民性を考えんといかん」
「もうひとつはね、国民性を考えんといかんということや。まあ、ウチの会社も世界中に会社を作ったり、工場を作ったりしておるけどね。その国の国民性を考えて、その国の人に合うように、経営をせんと。国によって、考えや風習が違うからな。マレーシアのうちの会社には、モスクがあるんや。あそこはマホメット教の人たちが多いからな。そういうふうに、マレーシアの人に合わせんとな。そう、わしの水道哲学、あれ、わしがそう名付けたわけではないけど、一般的に、そう言われているんやけどね。道端にある、よその家の水道の蛇口をひねって、水を飲んでも咎める人はいない。なぜかというと、水道の水は、タダではないけど、安いからや。水道の水は、安全で、安くて、たくさんある。だから、いいものを安くたくさんつくり、この世から貧をなくすことが、産業人の使命やと。そういうことを話したら、みんなが『松下さんの水道哲学』と言うようになった。
けどこれを、インドネシアで『水道哲学』と言うたら、『なに言うてますか、水はここでは貴重なもの、高価なものです』ということや。それでは『日本の水道と同じ、安くて、豊富で、いいものは何ですか』と聞くと『バナナです』と。そうすると、インドネシアではバナナで話をせんといかん。まあ、それぞれの国柄、風習、考えをもって、経営をせんといかんということや」
普遍性、時代性、国民性は、なにも経営だけではない。国家にも、人生にも、この3要素は大事ではないかと思う。
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