中部電力が浜岡原発の運転を停止、信用評価上はネガティブ《ムーディーズの業界分析》
主任格付けアナリスト/VPシニア・アナリスト 岡本 賢治
5月9日、中部電力(Aa2、格下げ方向で見直し中)は、政府の要請を受け入れ、浜岡原子力発電所の運転を、地震や津波対策の安全強化策が完成するまで停止することを決定した。中部電力では、安全強化策が完成するまで、2~3年かかると見ている。浜岡原発の運転を停止すれば、中部電力はコスト高の火力発電の増加を強いられる。流動性の制約およびキャッシュフローや収益性の悪化につながり、信用評価上ネガティブである。
さらに、中部電力のキャッシュフローや収益性が大きく悪化することになれば、電力セクターは規制当局によって保護されているため信用力が高い、という従来のマーケットの認識が変わる可能性がある。政府は、先週公益セクターへの財政支援策を検討していることを示唆したが、詳細はまだ発表されていない。
浜岡原発は、全体で3基の原子炉があり、その発電能力は361.7万kWである。2010年度の中部電力の発電量のうち、約11%を原子力発電が占めている。現在、中部電力はその11%分を、コスト高の火力発電で代替せざるをえない。また、中部電力は、現在顧客にコスト上昇分を転嫁することは考えておらず、代わりに政府に対して金融支援を要請した。
中部電力は、浜岡原発の一時停止を発表した後、11年度の業績予想を修正し、未定とした。中部電力の11年度の原子力発電の利用率は84%の計画であり、利益への変動影響額は1%当たり26億円であった。したがって、11年度の残りの期間に原子力発電を止めた場合、約2000億円の利益押し下げ要因となる。11年度の営業利益予想は、1300億円であったので、中部電力はコスト削減に努めても赤字になる可能性が極めて高い。
浜岡原発は太平洋岸にあり、かつ東海地方は地震多発地帯であり、地震学者は今後30年以内にマグニチュード8の地震が起こる確率を84%と予測している。そのため、浜岡原発は地震や津波の被害を受ける確率が、国内の他の16ある原子力発電所のいずれよりもはるかに高い。
中部電力は、これまで電力事業に係るすべての安全基準や法律を順守してきた。しかし、東京電力(Baa1、格下げ方向で見直し中)の福島第一原発を襲った3月11日の地震、津波を受けて、政府の特別の要請を受け入れ、自主的に原発の運転を一時停止し、緊急安全対策を講じることにした。