キアヌ「ジョン・ウィック」で復活懸けた驚きの策 スタントマンを監督に起用、期待薄が大ヒットに

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だが、スタジオや配給会社にしてみれば、無名監督は魅力に欠ける。それに、キアヌは、『フェイク・クライム』『47Ronin』『ファイティング・タイガー』を立て続けに失敗させたところだった。スタジオや配給会社各社を招いて完成作の試写を行ったところ、興味を示してくれたのは、ライオンズゲートに買収されたばかりだったサミット・エンタテインメントのみ。次があるなどと思ってもいないスタエルスキとリーチは次の仕事を確保し、イバニクも次のプロジェクトを探し始めた。

しかし、批評家に向けて試写を回し始めると、反応は上々だったのだ。批評サイトRottentomatoes.comでは86%の批評家から称賛され、世界興収も、2000万ドルの予算にしては文句のない8600万ドルを弾き出すことになる。

すると、思いもしなかったことに、ライオンズゲートが「製作資金を出してあげるから続編を作らないか」と言ってきたのだ。その時の気持ちについて、キアヌは、筆者のインタビューで、「オリジナルがどんなふうに始まったかを覚えているだけに、自分たちはこんなところまで来られたのかとしみじみ思ったね。わからないものだよ。オリジナルはインディーズ映画で、話題にも上らなかった。でも、僕自身は、あれをクールな映画だと思っていた。ほかの人もそう思ってくれたことを、すごく嬉しく思う」と語っている。

一方、イバニクは、「Vulture」のインタビューで、「いかにもハリウッドらしいよね。みんなこの映画を欲しくないと言ったんだよ。その同じ人たちが、今、自分たちも『ジョン・ウィック』みたいな映画を作ろうとしているのさ」と皮肉を述べている。

シリーズ総売り上げは10億ドルを突破

スタエルスキが単独で監督した続編は、4000万ドルの製作費に対し、世界興収1億7400万ドルのヒットとなった。3作目は、製作費が7500万ドル、世界興収は3億2800万ドル。最新作の製作費は1億ドルで、毎回コンスタントに製作費の4倍を売り上げてきている。

シリーズとしての総売り上げは10億ドルを超えた。だが、キアヌとスタエルスキは、規模が大きくなってもオリジナルの精神が失われないよう、常に心がけているという。何より変わらないのは、彼らのジョン・ウィックへの愛。だからこそ、スタエルスキはジョン・ウィックを苦しめ続けるのだ。

「観客に思い入れをもってもらう手段として、ヒーローを苦しめるというものがある。どんなにつらい思いをしても、ヒーローは立ち上がるんだ。ジョンも、10回倒れても、10回立ち上がる。彼のそんな忍耐強さが、僕は好きだ。誰も彼を止めることはできないんだよ」と、スタエルスキ。最新作でもこてんぱんにやられては立ち上がるジョン・ウィックを、観客の皆さんも愛を持って見守ってあげてほしい。

猿渡 由紀 L.A.在住映画ジャーナリスト

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さるわたり ゆき / Yuki Saruwatari

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒業。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場リポート記事、ハリウッド事情のコラムを、『シュプール』『ハーパース バザー日本版』『バイラ』『週刊SPA!』『Movie ぴあ』『キネマ旬報』のほか、雑誌や新聞、Yahoo、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。

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