生物を「学ばない人」「学ぶ人」に大きな差がつく訳 社会に出た今こそ身につけたい教養とは

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撹乱が全くない生態系を考えてみましょう。動物も植物もどんどんと数を増やしていきます。その結果、生活空間や餌といった資源が不足してきて、生物どうしが激しい争い(競争)をしてしまいます。激しい競争が起こると、競争に敗れた生物はその場所で絶滅してしまい、競争に強い生物ばかりが繁栄する単純な生態系になってしまうんです。

一方、激しい撹乱が頻繁に起こると、撹乱が原因となり多くの生物が絶滅してしまいます。よって、適度な撹乱によって生物の数を抑制することで、激しい競争が起こらず、多くの生物が共存でき、生物多様性の大きな生態系となるんです。

雑木林を守っていくためにはどうしたらよいか

雑木林は、人間によって適度な撹乱が起こされることで、生物多様性が大きな状態で維持されている豊かな森林といえます。人間が適度に樹木を伐採することで、雑木林には地面付近までしっかりと日光が届く場所が生まれます。その結果、日なたでの生育に適した樹木(コナラ、クヌギなど)も日陰での生育に適した樹木(スダジイなど)も生育でき、それらを食べる多様な動物も生息できるようになります。実際、雑木林には貴重な生物(ムササビ、ニホンイタチ、オオルリ、オシドリなど)も多く生活しているんです。

さて、ここで改めて考えてみましょう。この雑木林を守っていくためにはどうしたらよいと思いますか? 「木を切らないようにする!」ではありませんね。人間が全く雑木林の資源を利用しなくなり、撹乱がなくなってしまうと、森林としては維持されますが、雑木林という多様性の大きい豊かな森林ではなくなってしまいますね。ですから、我々が適度に自然と関わりを持ちながら、多様性の大きな雑木林を維持していく必要があります。

しかし、現代人の生活スタイルを考えてみてください。大多数の日本人は、森に足を運んで、資源を調達する生活なんてしていませんね。ごはんを炊くために薪を取りに裏山に……とはなりません。我々にとって「適度に自然と関わる」生活というものは、非常にハードルが高いことに気づきます。

ですから、里山の保全、そして里山の雑木林の保全というのは、現代の日本にとって非常に難しいテーマなんです。大規模な伐採などが起こらないように守らないといけないけれど、適度に撹乱をしないといけない。まるで、「放っておいたら拗ねるくせに、干渉したら怒る」という人間関係みたい(?)ですね。

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